殊能将之著 講談社文庫です。上司に借りました。
飛騨牛を偽装した『丸明』の事件がありましたが
あそこの元社長の世間を舐めきった記者会見と
結局逃げ切ったしたたかさには感心します。
ちょうど、この本を読んでいたときに騒がれたんで。
そういった意味では、たいむりー。
「―あの逆説の村」「最初の殺人をごまかすために、関係ない
殺人を犯すって?そんな馬鹿がいるかよ。
一人殺しても二人殺しても同じ、なんてのは
言葉の綾だよ。刑罰も重くなって発覚する
危険が増すだけじゃねーか」(意訳)
いわゆる「悪魔の手毬唄」「獄門島」とか
「鵺の鳴く夜は恐ろしい」とか
「悪魔が来たりて笛を吹く」とか、角川のせいで
いくらでも書けてしまうPONの世代ですw
無知蒙昧な村の衆、名家、民承のわらべ唄、財宝、
からくり、何か隠している婆さん、洞窟、主人公に
協力的な若い女性、近親相姦、そして無意味に派手な
殺され方をする被害者、と要するにまあ、その手の
和風ホラーが大好きな方が、オマージュ、パロディ、
もしくは俺もその手の作家になりたいのだ!
と書きあげてしまったような作品。
この小説のキーワードは「牛」「泉」「俳句」。
はじめに書いておくけれど「美濃牛(みのうし)」とは
クレタ島の迷宮の王「ミノタウロス」にかけている。
この題だけ見ても、ああその流れかと急速に興味を失う
人もいそうだ。題名で損している。
<
あらすぢ>
探偵小説のDNAが息づく傑作長編!
病を癒す力を持つ「奇跡の泉」があるという
亀恩洞(きおんどう)は、別名を〈鬼隠れの穴〉と
いい、高賀童子(こうがどうじ)という牛鬼が棲むと
伝えられていた。運命の夜、その鍾乳洞前で発見された
無惨な遺体は、やがて起こる惨劇の始まりに
過ぎなかった。古今東西の物語の意匠と作家への
オマージュが散りばめられた、精密で豊潤な
傑作推理小説。
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蟹面の「
出羽」という男が出てくる。この男が最初は
カギを握っているのかと、じっくりと読みこんでみた。
その期待?はいい意味で裏切られたけれども、いいキャラに
出会うことができたと思う。この地方出身の元不良で
名古屋でチンピラをやり、一通り闇社会を見てきた末に
帰郷した人物。本来ならば、こんなキャラは村人から
恨みを買って殺されたり、殺したりする役回りでも良さそう
なのに、そうならなかったのは多分、作者の性格がいいから
だと思う。
*以下作品引用*******************
・人を人とも思わない目。顔色ひとつ変えずに相手を
半殺しにできる目だ。アマチュアがプロにかなうわけ
がない。出羽はかつて、いくら威勢が良く血気盛んでも、
決してこういう目の持ち主とは喧嘩しなかった。
・青少年教育も実際、重労働だ。
「飛騨牛の輝かしい歴史は1981年に始まる。
畜産業の低迷に悩んでいた岐阜県は、プロジェクト
チームを編成、1000万円かけて一頭の種牛
(安福号)を購入した。安福号の遺伝子はすさまじく
飛騨牛はブランドとなり、岐阜県に数十億もの利益を
もたらした・・」
「岐阜県のどこでつくろうが、黒毛和牛なら飛騨牛や。
肉質検査さえ通ればな。ABCは歩留まり、一頭から
どれだけ肉が取れるかでAが最高。数字は肉質で5が
最高。飛騨牛であるのはA5かB5に入ることが条件や」
「普通の和牛と飛騨牛では雲泥の差や。育てるのに1年多い
3年かかるうえ飼料代が年間数十万かかる。大ばくち
みたいなもんや。飛騨牛になり損ねた美濃地方の牛
「美濃牛」や」
*ここまで*******************
石動戯作(いするぎぎさく)という、なんでそこにいるの?
と、いつも場違いなところに現れ、皆が「不思議」に思いながらも
「変」には思わない自然体かつ飄々としたキャラが出てくる。
時に作者の意向を代弁すら行うような、こういったキャラ。
だいたい、話の終わりでは、極悪人として落ち着くか、何か
秘密使命を帯び目的意識を持って事件現場にやってきた人物で
あることが明らかになるか、だいたいいずれかであるものだ。
そしてそのいずれかであった。
彼の言動を見ていると、隆慶一郎先生の
「影武者徳川家康」に出てくる「風魔小太郎」を
思い出す。
文庫の厚みは3センチほど。作者がキャラに語らせる
音楽の趣味話や俳句の話など、作者の趣味に走りすぎている
ところ、なきにしもあらずだけども、特定分野について
ちょっと詳しくなれて、頭がよくなったように思える
例えば、詩篇や俳句を英訳することにキャラ達が
討論するシーンがある。
「菜の花や月は東に日は西に」蕪村
菜の花、つまりアブラナを英語では<レイプ>と
言うらしい。しかもスペルも強姦と同じ<RAPE>や。
「強姦や月は東に日は西に」と
なんとシュールレアリスティックな句だ!と欧米人は
思うらしい・・坪内稔典(としのり)氏出典
次がどんどん読みたくなる面白さと、妙に持って
回った書き方や、思わせぶりな伏線ってやつが
あまりない。平易な文章で書かれているので非常に
読みやすい。また話の合間に、作者が語りたい事も
さりげなく挿入されている。
*以下作品引用*******************
・ここではないどこかを求め、自分ではない誰かに
なりたがる者は常に裏切られる。
・世の中には手間取っておいた方がいいこともある。
情報化と効率化だけが正義やない
・生と死のあいだの宙ぶらりん、それが生きるという
ことではないだろうか。だからといって死を超越する
必要もない。
・根っからのワルというわけではないらしい。
でもこういう奴が実は一番危ないんやと
刑事は思った。ほんとうにその筋の団体に
入るようなやつは、方向性は間違っているに
しても自分に自信を持っているからつまらない
ことで暴れたりしない。喧嘩慣れしていないから
「キレた」とくだらない言い訳で平気で人を刺す・・
*ここまで*******************
「雷撃の恋」ってのもあるらしいけれども、それに
したってヒロインの恋の行方は、さすがに安易だった
気がする。だって主人公、最後まで居ただけ。
彼が一番オトクだったのでは?
「天瀬さん、人間にとって大事なことはふたつだけ
なんですよ「考えること」と「愛すること」です・・」
面白かったんだけれど、読み終わって数年後に、内容を
思い出せるか(印象に残るものがあるか)と言うと
ちょっと??である。このあたり、一昔前のアカデミー出版
「超訳」シリーズに似ているかも。
「日常で気になる事はたくさんある。それが推理の出発点
人は無意識であれ意味のない行動はしないものなのだ・・」
最後のページで、女優である
池波志乃さんが、この小説の
解説を見事に書き記していること、それが一番ビックリした
ことかもしれない。
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