通勤していた。だいぶ遅くなってしまったある日
「ああ今日もしんどかったなあ」と思いながら、
やや下り坂道での信号待ちをしていた。
車はいつものエンジン音のまま静かにアイドリング。
カーラジオからFM番組が流れ、ぼーっとしていると
急に身の回りに変化が起きた。
ラジオの音は引き続き、呑気に聞こえてくるし
絞ったヘッドライトと速度計なんかのバックライトは
しっかりと点いている。電気は問題なく通っている
わけで、なのにこの違和感は・・?
エンジンの振動がシートを通して伝わって
こなくなった。エンスト?
妙だな。とりあえず、パーキングに切り替え、
キーを回してエンジンを止めてみた。
再びセルを回す。ふかしてみるとエンジンは
かかったようなのだが、手ごたえは「さっぱり」で
まったく伝わってこない。
前の車は信号が青になってとっくに行ってしまった。
バックミラーで後方を確認すると、幸いにも
後続車なし。
ここにいちゃマズイよな・・と、その時、不思議な
くらい冷静だった自分は、運転席の窓を開け、
TMレンジをニュートラルにして車外に出た。
ドアを閉め、左肩を車の窓枠に乗せ、片手でハンドルを
操作しながら、ちょっと押してみた。
下り坂道なせいもあって車はゆるゆると前進。
しめた!
左手には閉店していた飲食屋の駐車場があったので
車が少しずつ勢いをつけ始めたころ合いを
見計らってハンドルを左にきる。
歩道への段差を「ぼうん」と乗り越え、車の前半分は
駐車場へ進入することができた。しかしここで
落ち着いてしまうと、揺り戻しで車道へ戻ってしまう
かもしれない。なんたって、自分の体一つで自動車を
押しているのである。そんなときに後続車が来たり
したらそれこそコトだ。
坂道から駐車場に乗り上げたイキオイを利用して
なんとか後輪部も歩道の段差を乗り切れた。
そのまま押して、未舗装の駐車場で車を停止。
エンジンを切った。当然ライトも消えて
闇がやってくる。誰もいない。
どーしよう。
はす向かいのところ、駐車場から50メートルの
ところに、ちょうどトヨタの販売店があったので
駆け込んでみた。残業しているおばちゃん店員が
いたが、役所みたいな対応で結局頼りにならない。
要は、ちょうど整備士が帰宅してしまったから
とか言ってた。
そこからさらに50メートル程のセルフスタンドに
駆け込み、事情をおそるおそる説明すると、
スタンドの兄ちゃんは
「それは多分、タイミングベルトが切れたんだな・・」
とつぶやいた。
その時の自分には「タイミングベルト」という
存在自体知らなかったので、
「オオごとになるんかなあ?」とか
「この騒動、いくらくらいかかるのかなあ?」とか
さらには「結局どうすりゃいいんだい?」とか
割と兄ちゃんに失礼なことばかり考えていた。
スタンドの兄ちゃんは割と簡単に、
「分かりました。多分、大したことではないと
思いますよ。まあ、ひとまず行ってみましょう」
と、クレーン付き4トントラックで、100メートルも
離れていない駐車場へ連れてってくれ、手際よく
牽引状態にすると再びスタンドへ。
早速、ボンネットを開けると
「ああ、やっぱりタイミングベルトだ。高速運転中に
切れなくって良かったね。エンジン内部の部品なんで
ここで直ぐには換えられないけど、ディーラーで
やってくれますよ。そんなに金はかからないハズ」と。
「車検から半年も経ってないようですけど
全部品を確認出来るわけでもないし、ハリ具合だけ
見て、部品ベルトの交換はしなかったんでしょう。
突然切れることもあるんだよね」
あの時ほど、ガソリンスタンドの兄ちゃんが頼もしく
思えたときはありません。
しかも一切、金を請求されなかったし。
申し訳ないんで、缶コーヒーを奢った。
早速、親父の車のディーラーに電話して、車は
明日ディーラー側が回収してくれることになり、
一晩、そのスタンドの隅に止めさせてもらうことに。
自分は、親父に迎えに来てもらいました。
人の好意もさることながら、運、不運は紙一重
だなあと。トラブルは突然やってきます。
長文、失礼いたしました。
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これは・・
ラベル:タイミングベルト