槇 幸著 (光人社)
知る人ぞ知る、光人社の○○よもやま物語
シリーズです。正直なところ、小貫健太郎氏の
イラストが古臭く(スミマセン)また「よもやま」
って言葉を使う感性が、なんかその、決して
戦前・戦中派を馬鹿にしているわけではないのですが
あうあう・・ま、ようするに食わず嫌いで
敬遠していたんですね。
今回、近所の公立図書館の「リサイクル本」。
要は、いらなくなった本をタダでもってけと
置いたあった中の一冊でして。(よもやまシリーズ
は全部で三冊、のこりはいずれ・・)タダならばと
GETしたものの、最近、ちょっと読む本に変化が
欲しいと、手を出してみたというのが真相。
<あらすぢ>
太平洋戦争中、馬車馬のように酷使された
潜水艦部隊。その中でもっとも量産数が多く
巡潜乙型潜水艦の一隻として建造された
伊二十五に、聴測員として乗り込んだ作者の
戦記というか日記。
「戦場は誤解と錯誤の連続」
まずびっくりしたのは、ローレライ
(あれは架空だけど)などのいわゆる
潜水艦モノでは、艦長が優秀で、
神の視点を持ち、読者も驚く方法で
窮地を切り抜けたりするけれど、あれは
本当に作家が作った「物語」なんだなとわかる。
誤解をおそれずに書くならば、実戦場では、敵も
味方も「マヌケ」な行動の応酬。
それでも、作者が乗っていた潜水艦、伊二十五が
ひとまず無事に日本に戻ってこれたのは、
このエッセイの中に何度も書かれていたけども、
不断の努力をしてしまえば、ジタバタしても
どうにもならん。死ぬときは死ぬってこと。
敵も味方も、明日生きているかどうかなんてのは
不思議な運のめぐりあわせ。
どんなに悪いことが重なっても不思議と命を拾うときは
あるし、あっさりと死んでしまうこともある。
そういうことなんだろう。
「もちろん努力は欠くことのできない重要な要素では
あるが、やはり「人事を尽くして天命を待つ」である」
まず無事に帰ってくることが最優先目標。
んで、あわよくば戦果をあげよう・・・
そういう行動パターンの艦長こそが
本当に優秀な艦長のようだ。
「同じ釜の飯を食った仲」
規律厳しいとされる海軍のなかで、潜水艦は
例外だったらしい。無論、軍隊としての厳しさは
むしろ他よりも辛いかったようだけども
お偉いさんも下っ端も、おなじ海面下。
敬礼などの儀礼や、奇麗な軍服など、潜水艦乗りに
求めようにも、そもそも艦が狭くて汚くて・・
そんな余裕がなかったようなのです。
余計なところに気を使う余裕があったら、少しでも
生き残る確率を求めろ、という、きらびやかさとは
無縁の現実主義だったそうで。
「アメリカ本土を爆撃した唯一の例」
この潜水艦「伊二十五」は、潜水艦でありながら
飛行機を一機搭載しているのです。
第二次世界大戦中の潜水艦なのに!
まさに海底空母。日本人って好きなんだな。
母艦に子機を載せるってパターンが。
下駄履きといいまして、水上を離着水できる
「フロート」付の偵察機なんですがね。
潜水艦の艦橋の後ろに巨大な土管みたいのを
背負ってましてその中に分解されて入ってます。
潜水艦浮上→飛行機組み立て→発射
だいたい20分ほど。ぷかっと浮いているだけの
潜水艦ほど無力なものはありませんので、
みんな大急ぎ。
その偵察機に爆弾を一個だけぶら下げて
オレゴンからの愛、のオレゴン州森林地帯に
爆弾を投下してきたのです。
これが日本軍の唯一のアメリカ本土爆撃。
アメリカなんかねー、B29使って首都爆撃で
10万人、最後は原爆まで落としましたからね。
爆弾一発の森林火災程度では、てんで比較に
なりませんが。
「陸軍が造った潜水艦」
題の通り、陸軍の兵隊が南の孤島に取り残され、
補給を行いたくっても、肝心の海軍も自分の身を
守るだけになってしまった戦争後期。
もう、海軍なんかアテにならん!と陸軍は
自分で潜水艦を作ることにしました(マジ)
その結果が「陸軍潜水艦中尉」という珍妙な兵種を
作り上げることになったようですがw
作者も、書いています。
「陸軍と海軍というこの二大勢力は、国内に他に
抑えることのできる勢力がないため、人的資源および
物資、特に限りある貴重な資材を無駄にしたものが
多く、戦争遂行上の大きな障害となった」と
潜水艦の話で、PONがいつも切なくなるところは
どんなに活躍しても、皆が頑張っても、負けた
時に、死ぬ所(沈没)を味方に見てもらえないことだ。
寄港予定日にまったく電信が戻ってこない
ああ、どうやら彼らは死んじゃったんだな・・
しばらくして、沈没「認定」となるのである。
「潜航中の潜水艦の死は、じっと耐えながら、
手出しのできないままの死であって、
つまり受容の死である―本心は飛行機乗りのように
空中に散る壮烈な死をうらやましく思っていた」
伊二十五は、作者が潜水艦の教官として艦を下りてから
何回目かの作戦航海にて、ついに戻ってきませんでした。
よもやまシリーズは3冊ゲットしたが、
この本が一番面白かった。
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