2010年01月25日

「ホワイトアウト」真保裕一

ホワイトアウト 真保裕一 新潮文庫

織田裕二だかが主演で映画化していた気もする。
確かにフジテレビあたりが喜んで飛びつきそうな
原作ネタではあります。

 彼ら(テロリスト)が決まって標的として選ぶのは
 権力の比護の届かない弱い者ばかりだった。
 彼らはただ自分達の暴力衝動に、薄っぺらな
 理由づけをしているのだ―。


彼の作品では以前に「取引」も読んでいる。
毎度ながら、作者はすげー勉強家だなあと思う。

あらすぢ
日本最大の貯水量を誇るダムが、武装グループに
占拠された。職員、ふもとの住民を人質に、要求は50億円。
残された時間は24時間!荒れ狂う吹雪をついて、ひとりの男が
敢然と立ち上がる。同僚と、かつて自分の過失で亡くした
友の婚約者を救うために――。圧倒的な描写力、緊迫感
あふれるストーリー展開で話題をさらった、
アクション・サスペンスの最高峰。吉川英治文学新人賞受賞。

 人の本心を覗くには挑発してみるに限るだろう― 
 千晶は言った。

そうなの?フツーのOLなのにヤクザ並みの
交渉術をもつ千晶さん(テロ集団に拉致監禁される)
である。

 疲労感はあきらめと弱気を呼び寄せる。
 冬山の遭難では最後まで生き延びようとする
 強固な意志が何よりも必要だった。
 意思を失った時、人は人でなくなる。

山(自然)に負けてたまるかーっってことかな。
「意思を失った時、人は人でなくなる」
いいセンテンスですね。

 (山でひとり助かった者を)決して責めてはならない、
 何が遭難につながったのか、反省は反省として
 冷静に振り返らなければならないが、
 責めることは誰にも出来ない。
 けれどかけがえのない人の命を奪われた者にとっては
 あきらめのつけられるものではなかった。
 どうしてもっと早く下山しなかったのか?
 どうして・・

「山でひとり助かった者を)決して責めてはならない」
そのようです。

 多くの名だたる登山家たちがその自書の中で説いている。
 山で苦難に遭遇した時、心も体も疲れ果てた時、
 精神と肉体が分離するような一種恍惚感にも似た想いが
 訪れる瞬間がある―と。

コントで使い古されたパターンですな。
「寝るなー 山田!」パシッパシッ
確かにシチュエーションによっては
死を選んだ方がラクなこともあるんでしょうが。

 山で死ぬのは本望だ、という登山家がいないわけではないが
 最初から死にたいと思って山に向かう愚か者はいない。
 本望と結果は違った。覚悟と観念では意味が違う。

「覚悟と観念では意味が違う」
うむむ。その通り。

関口苑生氏があとがきで面白い事を書いている。
近年、日本の冒険小説(主人公が知力体力で絶望的な
状況からはい上がる、この小説のようなモノを
そう呼ぶらしい)は一時停滞した時期があった。
それはちょうど世界で冷戦終結した時期と重なるのだと。

つまり、普通に生きている普通の人間が
やむなく超人的な活躍をしなければならない、
そんなプロセスを楽しむのが「冒険小説」であるのに
冷戦終結のため、いまや各人が立ち上がるための
モチベーションが不足している世の中
なのだ。
家族のため、国家のため、転じて世界平和のためとか
そういうモノのために、あと一歩体を張って踏ん張る
理由が、正義?側に欠けているってことらしい。
悪のほうには相変わらず、大義だの革命だの
それ以前に「金」という理由は揺るがないのだけど。

まあ一理あると思う。

そんなモチベーション不足な現代において
どこにでもいるフツーの主人公が、
結果的に超人(英雄)になってしまった
理由はただひとつ。
雪山で親友兼ライバルを失ってしまったためである。
自らの油断(慢心と自分に負けたこと)が
取り返しのつかないことを引き起こしてしまった。



映画版を観たわけではないが、このへんを上手く処理せず
単に活躍を映像化してしまうと
ダイハードのマクレーン刑事のように
もともと超人的素養のある、あらかじめ用意された
主人公が、シチュエーションにおされ
イヤイヤ活躍するという話になって、イマイチになると思う。

彼(主人公)は、ただ死なせてしまった親友に対する
贖罪だけで行動するのだ。何度も何度も楽になろうとする
シーンがある。
また、彼の行動だけで事態がすべて解決した
ワケではないあたりも、非常にリアル。
(彼は、その時点において、超人的な想像力と体力で
 ベストと信じる行動をしますが、事態は常に
 彼の想像すら越えたところで推移します)

最後の方の(イヤな)オチはノーマークだったんで、
ビックリ。すっかり忘れてた自分が情けなかった。
やられたー。

アオリ文句には「圧倒的な文章力」とある。
確かに全般的には読みやすかったけど、
一部、ダムの構造とか制御システムとか、作者が
ダムについて事前によーく勉強したことは
充分過ぎるくらい伝わってきたけども、
そこまでづらづら記述せんでも・・と思うところもあった。



面白かった。PONスコープ中の上。
詳細を忘れてしまった頃を見計らって
もう一度読んでみてもいいかな。

真保裕一作品リスト

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ネタバレのメモがき
posted by PON at 21:00| ☁| Comment(4) | TrackBack(0) | 読書(ミステリ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする