「子供はすべての暗闇にお化けの形を見出す―」
いつもの事だけど、プロの作家に大変失礼な
言い方だが、本当に宮部さんは読み易い文章を書く。
つくづく感心する。
彼女の一文を、このブログのために(勝手に)
書き写しているだけでも、なるほど、そういう
表現の仕方があるのか!と勉強になることが多い。
パソコンが主流になり、自分が覚えていない
漢字でもすら、なんでも漢字に変換しがちだけど
あえて「ひらがな」のままにしておくだけでも
読み手の印象はずいぶん変わる。
突き詰めて言えば、俳句なんかのように
説明文にならないよう単語を吟味。同じ事を
指している単語でも、より多義的な単語を
選択することで、読み手の想像力の幅をひろげ
少ない言葉で多くの世界を表現できる。
プロの小説家はそれを当たり前のように
行っているのだ。文章くらい誰でも書けるなんて
思いがちだけど、どの世界にもプロは存在するし
やっぱプロって凄い。
<あらすぢ>
内容(「BOOK」データベースより)
財閥会長の運転手・梶田が自転車に轢き逃げされて
命を落とした。広報室で働く編集者・杉村三郎は、
義父である会長から遺された娘二人の相談相手に
指名される。妹の梨子が父親の思い出を本にして、
犯人を見つけるきっかけにしたいというのだ。
しかし姉の聡美は出版に反対している。聡美は三郎に、
幼い頃の“誘拐”事件と、父の死に対する疑念を
打ち明けるが、妹には内緒にしてほしいと訴えた。
姉妹の相反する思いに突き動かされるように、
梶田の人生をたどり直す三郎だったが…。
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「―真実にも寿命があるのだと。」
面白かった。淡々としていて
ドラマチックな設定や、仕掛けがあるわけでもない。
「黙ってりゃわかんないわよ―」
会社生活を、いや人生を明るく乗り切るための
金言である(主人公の会社上司のセリフ)
そう、すべては「黙っていればわかんない」のである。
表面上はうまくいっていたことをほじくり
繰り返すことが、真相を究明することが
本当に幸せに繋がるのだろうか?
黙ったまま時が過ぎるのを待っている
そんな謎があるとすれば、それは、隠したほうが
誰かが皆の幸せになるから・・そう判断した
結果だからではないのか?
両親にとって「戦友」と「一番星」
姉と妹の、育った時代の差からくる気質の差が面白い。
主人公は素人探偵ながら、真相について
おぼろげながら理解できるところまで到達するが
結局根本的な解決はなされぬまま終わる。
誰が悪いわけでもない、誰か・・
それと巻末の解説を書いている「杉江松恋」氏
この人も作家であり文芸評論家だというが
解説文もやはりプロだった。
松江氏自身がどこぞの職人さんの引用した言葉
「下手の長糸・上手の小糸」
・・もとは裁縫の教えで、糸通しの回数を減らしたい
ために長い糸を通しがちであるが、実は上手な人ほど
手間を惜しまず適当な長さの糸で縫っていく。
地味な作業の繰り返しこそが「上手」なのだそう。
「上手の小糸」こそが宮部作品をよく表現している。
こんな私でも、いい加減自分の書く文章の長さ
回りくどさにただ呆れることがある。
書くだけ書いておきながら、言いたいことの
半分も伝わらなかったりする。
「上手の小糸」とは頭のよさだな。
最後に、ネタばれと言うほどではありませんが
折に出てくる「携帯電話」がポイント。
気をつけて読んでみてください。
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ラベル:宮部みゆき 誰か Somebody