2010年02月16日

「魔術はささやく」宮部みゆき

魔術はささやく (新潮文庫) 宮部みゆき

宮部作品はしばらく遠ざかっていたんですが
上司よりいただきました「誰か ----Somebody」を
一気に読破してしまったので返す刀で
魔術はささやく」です。
毎度ながら読みやすい文体で、しかも最後には
丁寧に謎が解明されるんで安心して読んでいられます。

あらすぢ
(「BOOK」データベースより)
それぞれは社会面のありふれた記事だった。
一人めはマンションの屋上から飛び降りた。
二人めは地下鉄に飛び込んだ。
そして三人めはタクシーの前に。
何人たりとも相互の関連など
想像し得べくもなく仕組まれた三つの死。
さらに魔の手は四人めに伸びていた…。
だが、逮捕されたタクシー運転手の甥、守は
知らず知らず事件の真相に迫っていたのだった。
日本推理サスペンス大賞受賞作。

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主人公は罪人の親を持つという設定。
センセーショナルな生い立ちは田舎町では
特に致命的。そんな田舎の空気は少年を
虚無的な青年にさせた。

故郷の町だけでなく、転校先であっても。
どこにでも情けない心根の人間はいるもので・・

ここもそうか。守は思った。
「人間は、せんじつめれば七種類しかいないという
 話を聞いたことがある」

「自分も十持っていて、隣の人間も十持っている
 状態で、その隣にいる人間に対して優越感を
 感じたいと思ったら 相手から何かを取り上げて
 しまうしか方法がない
 ―彼のような人間が満足感と幸福感を
 得ようと思ったら、もう足し算では駄目なのだ。

 引き算しながら生きてゆくしかない」

バカによるイジメならば自分だけが耐えればいい。
守はそれを跳ね返すだけのポテンシャルを持つが
そんな矢先、世話になっている伯父夫婦の身に
災難が降りかかってくる。

ま、ネタを知らされれば、ホントそんなことできるの?
と思わなくも無いんだけれど。

「ピッキング能力」「魔術」「詐欺商法」

世の中には、それだけの能力を持っているのに
自律により悪いことには使わない人と
目的のためなら何でもやる人が存在する。
(場合によれば、能力を持っていなくても
 無理やりなんとかしてしまう)

人は性善でも性悪なくニュートラル。
天使にもなれれば悪魔になってなれる。

SWでいう、ジェダイの教えと同様。
ダークサイドに堕ちて即効実益を得る方が簡単なのだ。

けれども人は基本的にどうしようもなく
弱い存在なので、誰でも暗黒面に堕ちる可能性を持つ。
天使と悪魔の差異とは実は小さなものでしかないのだ。

故郷で孤独だった守を唯一フォローしてくれた
鍵師のじいちゃんがいう―

「おまえの親父さんは悪い人ではなかった。
 ただどうしようもなく弱かったんだ―
 弱さは誰もが持つ。お前にも。世間の連中が
 無責任に「血は争えない」なんていう。
 じいちゃんが怖いのはそれだ」

物語の流れがいきなり「緩む」ところがある。
主人公は、タクシー運転手である伯父の疑いが
晴れた時点で、いまいちすっきりしないけれど
それ以上、真相を追う必要がなくなるのだ。

結局は、犯人の方が主人公のことを何故か気に入り
正体および真相の暴露をしてくれんだが。

高校生にしてピッキングの名手ってのもなんか
キャラ設定としてはかなり特殊。
主人公のバイト先での「広告」に関するくだりも
これまた余計といえば余計。最後の最後で
繋がるのかと思いきや、行き止まりのまま
話が終わってしまったり。



宮部みゆき作品にしては結構初期のころのようで
構成や文脈が若干読みにくい部分もあったけれども
それでもやはりグイグイ引きこまれる、良質の
ミステリーでありました。

「悪いのは自分の意思でやったりやらなかったり、
 したことに言い訳を見つけることだ。
 守、親父さんをお前の言い訳にしちゃいけない
(意訳)」

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魔術師いわく・・
posted by PON at 21:00| ☔| Comment(0) | TrackBack(1) | 読書(ミステリ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする