凡将山本五十六 (徳間文庫) 生出 寿 (著)
生出 寿(おいでひさし)
ワリと古い文庫。
自分のように戦史を中途半端にカジるヤツほど
陸軍より海軍の方がクレバーで、現代風の思考回路を持ち
山本五十六といえば名将で英雄であり
海軍の聡明さを代表する存在・・なんて頭から
決め付けていたりしがちだけど、この本は、
そんな風潮をハナから否定している。
読んでいて、いっそ小気味いいくらい。
<あらすぢっつーか内容>
内容(「BOOK」データベースより)
真珠湾奇襲作戦の立案者であり、またミッドウェー
海戦に惨敗した提督・山本五十六。
三国同盟反対、日米開戦回避に尽力した山本が、
連合艦隊司令長官を拝命するや戦争に踏みきったのは
何故か!?敵機の爆撃によるブーゲンビル島上空での
壮烈な最期が意味するものは暗殺か、それとも
自殺だったのか!?膨大な資料、証言をもとに
人間山本五十六の劇的な生涯を浮彫りにする
衝撃評伝。
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確かに自分も様々な太平洋戦争本を読んでいて
1)確かに山本提督は真珠湾攻撃を成功させたけれど
その後の指揮が名将と称されるワリに奮わない
(活動が鈍い)
2)ハワイでも、ミッドウェーでも、
なんで自分が前線に出なかったのか?
3)足が遅く、燃費も悪い艦隊(特に戦艦)を
毎度毎度、内地(呉)に帰らせてどうする?
この3つは常々不思議に思っていた。
とにかくズバズバとぶったぎり、それが
いちいちスジが通っているので読んでいて気持ちよかった。
確かに祖国は負けちゃったけど、
なにかないか、一瞬でも輝く人が誰でもいいから
いなかったのだろうか?
自分達がやったことを完全に否定したくないから
歴史家は英雄を作り上げるのかもしれない。
英雄なんていなくっていいのかも。
ましてそんな英雄が老醜をさらけ出すことに
なったりでもしたら。
山本五十六提督が他の「英雄」と違ったのは
晩節を汚さなかったことかな。
実際、日露戦争の英雄「東郷」提督は
太平洋戦争直前まで生き残り、見えないところで
余計な口を挟み、海軍に悪影響を与えてしまっている。
山本提督も人の子。山本五十六という男は要は・・
・見栄坊でエエカッコしい。
・体を張って(暗殺や陸軍との内戦もありえる状態)
対米戦阻止に動かなかったのは、やっぱ怖かったから?
・いいトコ取り。所詮は軍人なんで、自分が一番
美味しい所に手の届く所にいる(連合艦隊司令長官!)
なら、やっぱ味わいたいじゃないですか?
・山本提督が好き勝手のあげくさっさと死んでしまい
以後の海軍の行動は、残された後輩達の後始末といった感。
・根っからのギャンブラーなんで合理より自分のカンを
優先し、いい人だけど自分の意見を否定する人には
頑迷な独善者になる・・この点、自分が読んでて
浮かんだのは、山本提督って長嶋カントクみたいだって
こと。
・意外に?人を見る目が無い。黒島亀人の登用など。
これは別に山本提督だけに限ったことではないのだが
海軍全般に言えることとして・・
・自分の職掌以外のことに口を挟むやつは
カコワルイとされる。
・カッコつけ屋。
だいたい、クレバーな人間は先が見えるので諦めが早い。
・ダメとかNoとか言えない。自分はなんでもできる
エリートだから。
・自分が傷つくことをおそれるので、国の大事と
自分(海軍)の名誉を秤にかけなければいけない場面
では自分を優先する。
このような行動様式をとる人間集団が
陸軍のような声はデカくて手も早い、
シンプルマインドな集団相手に諸事意見を
戦わせたら、そらズルズルいっちゃうかもなあ。
実際、そんな風になっちゃったし。
どうせヤルなら徹底的にやるべきだった。
敵の寝込みを襲い、さっと斬りつけてトドメもささず
あとは脱兎の如く逃げ出す・・というやり方では
日本海軍はただ卑怯とみられ相手国を怒らせるだけ。
提督は、開戦と同時にアメリカ国民ががボーゼンと
するほどの痛撃を与え、戦意を喪失させる。
それを狙っていたようだが、自らは出撃せず他人任せ
意志の疎通も万全とは言いがたく、結果は中途半端。
こんなあたり、彼が凡将と言われても仕方ない。
その意見には賛成。
歴史に「もし」は無いと、古来より言われるが
ダレがどう動いたとしても、結局、日本の負けは
確定だったよ。うん。
戦争してしまったことが既に失敗。
ま、後知恵と言われても仕方ないけれど、要は
山本五十六は海軍次官として政治的に高い見識があり
海軍提督として立派であり、個人として優れた所も
多々あった。しかし対米戦の所信を国策の中枢に
告白できなかったこと、ミッドウェーに敗北して
致命傷を受けたことは、いかに他が優れていても
帳消しにしてしまう。軍人が戦場で敗北したのでは、
他のなにものをもってしても償うことはできない。
(佐藤賢了)
あと作者の生出さんは、山本提督が部下を死地に送る
ってときに、懇意にしていた芸者の二号さんに
恋文を送るのはいかがなものか?とかまで
記述していたけど、それくらいはまあいいんじゃない?
文庫: 286ページ
出版社: 徳間書店
発売日: 1986/08
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