2011年09月27日

「戦艦武蔵」吉村昭

「戦艦武蔵 吉村昭」

戦艦武蔵 (新潮文庫) [文庫]
吉村 昭 (著)

吉村 昭氏といえば著作「陸奥爆沈」もそうだけど
結構、戦争にに詳しい小説家って勝手に思ってたが
彼自身がこの後書きにこう述べている。
長いけどざっくり転記する。

 戦争記録にほとんど関心がなく、戦争兵器の
 ことをずらずら書かれても、専門用語も多くて
 さっぱり。まったく創作意欲がわかない。

 そもそもは、昭和38年、友人のロシヤ文学者より
「戦艦武蔵の建造日誌」を借用したことから始まる。
 建艦にたずさわった長崎造船所の技師が
 米軍に回収されぬよう、秘匿していた
 大学ノート30冊にもおよぶモノ。
 しかしながらその紙面から、戦時中の
 あの異常な程の熱っぽい空気が吹き上げてくる
 ことに強い興味をいだいた。

 戦争を解明するには、戦時中に人間たちが示した
 エネルギーを大胆に直視するべきだ。そして
 そのエネルギーが大量の人命と物を浪費したことに
 戦争の本質がある気がする、そう思い至ったのである。

うーーん。それで書いちゃいますか、こんな貴重な本。

あらすぢっつーか内容
内容(「BOOK」データベースより)
日本帝国海軍の夢と野望を賭けた不沈の戦艦
「武蔵」―厖大な人命と物資をただ浪費するために、
人間が狂気的なエネルギーを注いだ戦争の本質とは
何か?非論理的“愚行”に驀進した“人間”の
内部にひそむ奇怪さとはどういうものか?
本書は戦争の神話的象徴である「武蔵」の
極秘の建造から壮絶な終焉までを克明に綴り、
壮大な劇の全貌を明らかにした記録文学の
大作である。

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一般民には、戦艦なんてどこが造っても一緒
要は、軍隊の基地で造るんでしょ?で終わって
しまうかもしれませんが、造船といっても
いろいろな方法があるんです。
一番艦「戦艦大和」は確かに一番艦なんで
海軍が直接指揮を取り、海軍造船所(呉)で造ったけど
二番艦、武蔵はいわゆる民間に発注したんです。
民間といっても三菱重工くらいしか造れないけどね。
なわけで、文庫の半分以上は、長崎の三菱造船所での
民間造船技師の奮闘が淡々と記述されている。

造る以上は、やっぱ民間はダメだ、と軍人に
言われたくはないし、これまでにない秘密主義で
造らねばならない。なんたって、会社の中でも
ホンの数名しか、自分が造った艦の名前すら
知らない状態。
今見れば、笑い話だがいろんなエピソードが。

長崎は外国人が多い。軍は彼らを最初からスパイ扱い。
外国企業が、採算が合わず港の近くから撤退すれば
その土地を海軍のフロント企業がすかさず買い取ったり
機密保持のため、造船所の周りを囲うことになり、
漁師が使う網(シュロ)を日本中から買い占め、
当時の漁師が訝しがったなど。
厳重管理している武蔵の設計図面が紛失したときの
軍の厳しすぎる取調べと、そのオチとか・・。

いろいろあって海軍への引渡しが無事終了。
エンジニア達は基地を振り返り振り返りながら去る。
彼らは既に弐号艦(武蔵)とは何の関係もない
 イチ民間企業の人間に過ぎないのだ・・


そして後半は、武蔵の戦記。
あれだけ大騒ぎしながら、軍はそして時代は
大戦艦を使いこなせず、来る日も来る日も無駄足。
そしてやっと実戦と思えば、それが運命の
シブヤン海でありました。

「武蔵」はフィリピンのシブヤン海で、
栗田艦隊として僚艦大和と共に奮戦するが、
結局メリケンのヒコーキに沈められる。
(レイテ沖海戦)ほんとに大山鳴動ねずみ一匹。

武蔵艦長は砲学の権威と言われた「猪口少将」
外国からはキャノンイノクチと呼ばれたらしい。

彼は自分の手帳に「武蔵はフルボッコになったけど
被害担当艦として他の艦は助かったから
良かった良かった」と慰めるように書き残している。
他にも・・
・武蔵にかぎらず栗田艦隊全般について
 対空戦闘がヘボい。乱射がひどく、
 遠距離から射撃をはじめて後追い射撃ばっかり。
・機銃はもう少し大口径のものを。当ってんのに落ちない。
・せっかくの主砲だが真っ先に測距儀が壊れたのは悔しい。
などと反省点を冷静に述べ、

・我倒れるとも、何ら悔いはない。
 我が国は必ず永遠に栄えて行くべき国なり。 
 皆様が大いに奮闘してください。
・当艦を失うのは極大だが、これにより敵が少しでも
 消極的になったんじゃないかと思わなくもない・・。
とシメている。



折角だから・・書いとくけど
大和と姉妹艦なんで同型艦の武蔵。
武蔵のほうが後からできた事や、
民間で造られたこともあって、艦内設備とか
豪華で指揮設備なんかもしっかりしていたらしい。
それに武蔵の犠牲をフィードバックしたため
沖縄特攻に向った際、大和は対空武装を
ハリネズミ化することができた。
キャノンイノクチにはなんの慰めにもならんが。


じじむさいキャノンイノクチ氏が紹介されてます。

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posted by PON at 21:00| 神奈川 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(歴史) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする