ロバート・シェクリイ 著
ハヤカワ文庫SF 1992
「フリージャック」として映画化された事
もあったらしい。PONが持っている文庫本の
「腰巻き」には、主演、ミックジャガーの写真入り。
PON初出は、もちろん小学校の図書館にあった
あかね書房「少年少女世界SF文学全集」。
前にも書きましたが、
「怪奇植物トリフィドの侵略」で衝撃を受け
同じような絶望感を味わえる話は他にないかな〜と
シリーズ内を模索しているときに出会った一品。
我ながら妙な奴だ。
<あらすぢ>
1958年(!)、休暇を終えてハイウェイを
走っていたトマス・ブレインは、スピードの
出し過ぎから衝突事故を起こして即死。
ところが、目覚めてみるとブレインは22世紀
にいて、生前とは似ても似つかぬ肉体の中にいる
自分を発見する。
この時代には、死後の世界――来世の存在が科学的に
立証されており、魂を別の肉体へ移す技術も確立
されていた。有力企業のひとつレックス社
(不死販売株式会社)が、20世紀で死亡した
ブレインを時間流の中へ引き上げ、別の
強健な肉体を与えて復活させたのだった。
すべては、自社の技術力をセンセーショナルに
喧伝するため。ところが・・
************************
この小説でPONは未来世界やら来世やら
ゾンビやら、そんなSF概念がこの世にあることを
マスターしました。
完全にネタバレで書きます。
1950年代に生きていた主人公にとって
不死販売株式会社の保護下で見る
未来世界とは死の恐怖をも乗り越えてしまった
レトロフューチャー、バラ色の世界。
しかし、会社のCMキャラクターとしての
存在価値がなくなり、ひとたび外の世界に
無一文で放り出されてみると、
技術ばかり先行しても、社会の内実(人間の内面)
は全然変わっていない、むしろ悪化していることに
気がつく。
この世界、金持ちは貧乏人から若い肉体を購入し
自分の魂を移植することで人生を延長することが
技術的に可能かつ合法になっている。
貧乏人の遺族には補償金が残り、肉体を提供した本人も
来世≒天国?への道が補償されているので安心。
普通に死ぬと、善行を積んだとかとはまったく関係なく
来世にいけるかどうかはランダムなため、
確実に来世にいけるというのは魅力的なのだ。
(こんな有様なので、この時代の宗教団体は既に崩壊)
魂の移植には莫大な金がかかるが、生命保険に
入っていれば、一般人でも人生のエクステンドが可能。
一度死んだ魂は、「来世の入り口」にたどり着く。
階段で言えば踊り場のような場所。ここに居る限り
現世の通信が電話!で行えるし、肉体が用意されれば
ここから蘇ることも可能。
が、夢のような話にはかならず裏が。
人類の科学力にも限界があって、一度「来世」≒成仏
してしまうと、その先に何が待っているのか、
誰も知らないのだ。
これまで「来世」から戻ってきた人間がいないので
ああ成仏したんだな・・ってことになっているけれども
「来世」の先はホントは地獄なのかも知れないのだ。
現世でも、いかに貧乏とはいえ自らの若い肉体を
提供しようとする人間がそういるはずもなく、
一方で人生の延長を望むセレブ層の数は果てしない。
金持ちは、あの手この手で貧乏人から
健全な体を巻き上げる構造。
移植手術でも数%の技術的なミスも起こり得るし、
正当?な肉体の後継者(魂)が新しい肉体に入る前に
横から悪意を持った浮遊霊が乗り込んでしまったり、
はたまた、持ち主(魂)のいなくなった肉体は、
いなくなった瞬間から腐り始めるので、中途半端に
移植されてしまうと、生きながら腐りはじめる・・そう
ゾンビになってしまうことも。
(このゾンビには理性があるので、普段は物陰にひそみ
自らの腐臭を隠すべく、一日一本オーデコロンを
使い切ってしまう。悲しい)
未来世界とは「欲」と「エゴ」と「ゾンビ」と
「幽霊」が普通に存在する、とんでもない世界に
なっていたのである。
そんな中で、1950年代の知識しかない古代人
ブレインはどうやって生きてゆくのか。
「蘇り技術」が未来社会へもたらした影響や、
たどった歴史は、PONが大人になってから
文庫版を読んで知った。
「あかね文庫」版は、少年少女向けなので、その辺は
結構省略してあり、未来社会で都合よく仲良くなった
ガールフレンドの助けを借りて、主人公が生きぬく話に
絞ってある。
・・しかし、こうして思い返してみると
奇妙な小説だよな。まだあまり世の中を知らない
少年少女に、こんな小説を読ませても良いものなのか。
多少、ソフィティスケートされてたにしても。
人生のこのあたりの段階において、子供たちが
「赤毛のアン」のような物語に出会うか
「不死販売株式会社」を読んでしまうか
はたまた、楳図マンガでトラウマこさえるか
まったく読書することなく外で運動するか
・・そんなささいな分岐が、その後の人生
(その人の親しむカルチャー)を
決めてしまうような気もする。
************************
管理人モチーベーション維持のため
クリックしていただけますと助かります!
↓ ↓ ↓
「少年少女世界SF文学全集」
参考までに・・
あかね書房「少年少女世界SF文学全集」
(昭和46-48)
アイザック・アシモフ作 福島正実訳
『鋼鉄都市』
ロバート・シルヴァーバーグ作 中尾明訳
『生きていた火星人』
アーサー・コナン・ドイル作 白木茂訳
『恐竜世界の探検』
レイ・カミングス作 斎藤伯好訳
『タイムマシン28000年』
パトリシア・ライトソン作 久米穣訳
『惑星からきた少年』
L・P・デービス作 白木茂訳
『四次元世界の秘密』
エドガー・ライス・バローズ作 野田昌宏訳
『地底世界ペルシダー』
アレクサンドル・ベリャーエフ作 飯田規和訳
『両棲人間』
ロバート・シェクリイ作 福島正実訳
『不死販売株式会社』
アーサー・K・バーンズ作 小尾芙佐訳
『惑星ハンター』
フレデリック・ポール&ジャック・ウィリアムソン作
中尾明訳
『海底の地震都市』
カルル・ブルックナー作 塩谷太郎訳
『ロボット・スパイ戦争』
ジュール・ヴェルヌ作 榊原晃三訳
『海底二万リーグ』
パトリック・ムーア作 白木茂訳
『月世界の核爆発』
H・G・ウェルズ作 飯島淳秀訳
『宇宙戦争』
ロバート・A・ハインライン作 福島正実訳
『さまよう都市宇宙船』
エドモンド・ハミルトン作 内田庶訳
『宇宙怪人ザロ博士の秘密』
ジョン・ウィンダム作 中尾明訳
『怪奇植物トリフィドの侵略』
エドワード・E・スミス作 小尾芙佐訳
『銀河系防衛軍』
PONでございます。
>ハインラインやレンズマンを読んで
>SFファンになりした。
>いまだにSFファンやっております。
そのようですね。御ブログを拝見していたところ
このようなところにSFファンの先達が
いらっしゃるじゃないですか!
これはうかうかと、SF関連でとても
偉そうなこといえないなあ、と
少々ビビッてしまいました。
ツッコミはお手柔らかに願いますね。
いまだにSFファンやっております。