上司からもらった小説を読み続けるシリーズ。
本日はこれ「呼人」野沢 尚 講談社文庫
野沢 尚さん、作者名は聞いたことがあるが
PONにはお初。この人は「TVドラマ」の
脚本家が主業務のようだ。
・・調べたら4年前に自殺されていました。合掌。
<あらすぢ>
少年は12歳にして「永遠の命」に閉じ込められた!?
僕はなぜ大人にならないのだろう。心も躰も成長を止め
純枠な子供のまま生きていくことは果たして幸せなの
だろうか。出生の秘密を自ら探る呼人が辿り着いた
驚くべき真実とは。感動のラスト、権力者の理想が
引き起こす現代の恐怖をリアルに描いた傑作長編。
内容(「BOOK」データベースより)
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自分、文庫裏にある「あらすぢ」(上記と同じ)を
まったく読まず、いきなりページを開き始めたんですが
それで正解だったと思う。
あらすぢは、PONも読んだ文庫の背表紙にも
記載されていたまんまなのだが
>権力者の理想が引き起こす現代の恐怖を
>リアルに描いた傑作長編。
「権力者の理想」→これは何?
作中に少なくとも「権力者」は出てこないと思うが
ああ「ミスター・ホワイト」のことか?
(↑作中に出てくるアメリカ闇の世界の帝王)
昔、記事にしました角川ホラーの小説「夏の滴」のように
1980年代の夏休み、瑞々しい少年物語の装いでスタート。
ところが、話が進むと主人公も含め、なにかいろいろ
「訳アリ」であることが明らかになってくる。
そうくるかあ・・
最後の方まで抑えられてきた主人公の母親の正体が
なかなかストレートだったので結構ビックリ。
<登場人物>
呼人:12歳で成長が止まってしまった主人公
永遠の12歳→12歳といえばマッカーサーが
日本のことをそう評価したが、この呼人ってのは
日本の総体(日本人の平均的意識でいいと思う)
の象徴と解した。
潤:呼人の親友その1、労働者階級出身ながら
生まれつきの秀才。彼は主人公とは違い成長する
・・日本の経済面の象徴
厚介:呼人の親友その2、インテリ家庭出身
ながら体力勝負派。もちろん彼も成長する
・・自衛隊にみることができるイビツな日本の
軍事面の象徴。
小春:不倫やら、略奪婚やら、まあそういった
日本の文化面の象徴。
(「不倫は文化」とのたまったどこかのおバカもいましたな)
厚介を通して語られる自衛隊にしても
子供の夏休みの風景にしても
あるいは連合赤軍、ベルギーの風景など引用が
多すぎて、なんかイカにもヨソから引っ張ってきました・・
という、いずれも作者の血の通った文ではなく
書籍上の知識を引用して肉付けした感は否めませんでした。
つまり、読×新聞の記者が得意としているような、
「見てきたかのようなウソ」が書けていない。
小説の作者は、ぜったいに自分が書いている
小説世界を実体験していなければならない・・と
いうわけではないが(だったら宇宙戦争モノや怪獣・ホラー
モノなど書けなくなってしまうし)
エンターテイメント小説としては面白いと思います。
二度読むほどではないですが。
もくじには・・
第一章 1985 十二歳
第二章 1992 十二歳
第三章 1999 十二歳
第四章 2005 十二歳
第五章 2010 十二歳
とあるが、まあおおよそこのとおり。
1999年に書かれた小説なので、それ以降の世界描写は
氏の想像の産物ですが、はずれています。
はずれて良かったですけど。
「自衛隊」
「連合赤軍と永田洋子」
「日本航空123便墜落事故」
「大和銀行ニューヨーク支店巨額損失事件」
「フランダースの犬」
・・な小説でした。
「いつまでも元気でいて」という
親が子供に向かって思う気持ちに
収斂されます。すべては。
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完全ネタバレ
以下、ネタばれを気にせず列記します。
学生運動を作者(当時生きていた一般人)からみた
総括は面白かった。
ストックオプションの説明とか非常にわかりやすい。
さすが野沢先生。ドラマ作家、かみくだいて描写することは
うまい。
北朝鮮の戦場シーンは面白かった。
「北朝鮮の国民は貧しいけれど特権階級の人たちは
世界一裕福らしい。肥え太った奴らが湾岸戦争の
二の舞になるのを承知で攻撃を仕掛けてくるなんて
考えられない。一番戦争したくないのは北朝鮮の
軍部であってぼくだって理解できる・・・」
呼人は母親が受けた実験によって
永遠に子供12歳のままになる。
単に体が「老化しない人になった」のであって
心のほうは経験にあわせて成長するものだとのだと
勝手に解釈していたのだが、どうやら頭も子供の
ままの様子。
体と心は別物だと思うが、呼人は26歳だろーと
36歳であろーとかなり子供。
オトナの会話でちょっと込みってくると
本当に解かんない描写があったり。
その辺の設定が、いまいち固まりきっていない。
ちょっと無理があるかな。永遠の12歳を
表現するなら別の設定もあったのではないかという
気もする。
小説の設定では、「老化阻害因子」なるものは、実験を
受けた母親から受け継ぐものらしく、永遠の子供は
実験を受けた母親からしか生まれない。
つまり呼人の子供は神にはなれない様子。
それとなぜ「老化しない人」=「神」になるのか
その辺がいまいちピンとこない。
そんな永遠に生きられる人ができたら、どちらかというと
高橋留美子作品の「人魚の森」シリーズのような展開に
なってしまうのではあるまいか・・。
それと話の発端(小春の家出が)マリアの啓示に
よるものだというのはどーか?
というわけで、どこまでいっても「エンターテイメント小説」
でありSFやホラーではないので楽しめればOKかな。