2010年01月22日

「無限連鎖」楡 周平

「無限連鎖」 楡周平

無限連鎖 楡周平 文春文庫

 アメリカの力の前に屈しない
 敵などいるはずがない・・
 (アメリカ大統領 マクレビー)


解かりやすくって面白かった。楡周平氏の本は
「フェイク」についで2作目。
最初に「フェイク」を読んでしまったのは
失敗だったかもしれない。
「フェイク」はどちらかというと
楡周平氏の小説にしては異端児だった様子。
(たしか、かる〜い感じの悪漢小説だったような
 あの小説だけ読んで、この作家の別の本
 読んでみよう・・という気にはなれませんでした)

なんだっけ?楡周平氏は
フレデリック・フォーサイスの熱量と
トム・クランシーの大胆さ併せ持つ
日本には稀有な国際小説が書ける作家だとか
どこかのアオリ文句にありましたけど。
なるほど。なるほど。

あらすぢ
全米各地で再び発生した同時多発テロ。その直後、
セレベス海で日本の巨大タンカーがシージャック
される。爆薬を積んだ船は、犯人らの指示により
進路を東京湾へ。
「一億ドルの現金を用意しろ」。謎のテロリスト
集団の要求を呑まなければ、東京湾は火の海になる。
刻一刻と近づく危機に、日米首脳は苦渋の決断を
迫られる。

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 かつて日本赤軍がダッカで起こしたハイジャック事件に
 際して「人命は地球より重い」という信じられない
 ようなコメントを吐いた―日本の首相の記憶が蘇った。
 目前に突きつけられた大きな問題に対し断固とした
 態度で臨むことを躊躇する傾向が垣間見られるのは
 今も昔もそう変らない・・。


 治安出動―それは国籍不明の武装ゲリラのテロ活動などを
 抑止するため、通常の警察力では治安維持が出来ないと
 考えられた場合、内閣総理大臣の命令により
 自衛隊がその任にあたることを意味する。
 しかしこれも現行の法解釈の下では、もともと暴徒鎮圧
 などを想定した「警察活動」と位置づけられたために
 警察官職務執行法が準用され、武器の使用は制限される


なんだろうね。
「テロによって歴史を停滞させることはあっても
 歴史を動かすことはできない」
ということです。ヤン提督じゃないけど。

それぞれに言い分はあるんでしょうが。
恨みつらみもあるんでしょうが。
オノレの勝手な思想、理由をもって
人を殺した時点で、もうどんな高邁な思想も
それを表す文章も演説もゴミくずと化すってこと。

ネタバレになってしまうけれど
状況すべてにリセットをかける兵器があって
それが活躍(=主人公の奮闘が無になる)
してしまうまであと何分!という
「時間と戦いになるって展開。

「ザ・ロック」の「プラズマ爆弾」
「亡国のイージス」の「テルミットプラス」
「バイオハザード」の「核兵器」とかとか・・

この小説にもやっぱそういう展開になって
ゆくのですが、渋く活躍する機関長の死に様が
異様に怖かった。その辺の下手なホラーよりも。

最後に、すべてを収拾して闇に葬り去る
隠密集団(SEAL)の隊長と隊員達がイカします。
軍事ロマンの自己満足といわれてしまえば
それまでで、彼らがどのように行動しようと
それで遺族が救われるわけではないのですけど。

その手の小説に毒されすぎ、と思われるかもしれませんが
実社会においても、闇に葬り去られた真相ってヤツは
案外多いと思うんですよ。
たとえば、こういった話が真実だったとして
その真相をなんかのはずみで知ってしまったとして
果たして幸せなんだろうか?
世の中には知らなくてもいいことがある・・
「そんなものなの」くらいに心の中で
納めておいた方が、幸せに暮らせるのかもしれません。

 この男は聖なる戦いの生贄として屠られるのだ。
 そう考えると、むしろ精神が高揚してくる気さえする。


「無限連鎖」ってのがこの小説の題名ですけど
コトの真相を知ってしまったら、この主人公の娘や
機関長の孫とかだって、テロリスト予備軍に
なってしまうわけです。まさに憎悪の無限連鎖

アメリカだけに限らず、どこの国だって、嫌われる
恨まれる心当たりは数知れず。
世界中に散らばるちいさな恨みの火種たちに
悪意を持つ組織が行動力と資金をかさね合わせた時
聖戦だの革命だの天誅だのといった人殺しが始まる。

 みろよ・・富と繁栄に満ち、平和を貪る国―あそこいるのは
 帝国主義のイヌとなって、その比護の下でのうのうと
 暮らす連中だ・・
 俺たちの国、同胞を蹂躙するものを倒すのは善で
 それに敵対するものは全て悪


でも、もし俺の家族に人為的悪意からきた
不幸が襲ったりでもしたら、俺もその原因を
放ってはおかない。

PONスコープ「中の中」
自分としては、もう一度読むほどではないが
読み出したら止まらない。



楡周平氏作品リスト

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したり顔でコメントするテレビ解説者。
人より少しでも違ったことを言って存在感を
出そうと、知識をひけらかし、
こうなったら大変ですねえ〜と
犯人も思いつかなかった最悪の可能性を
公共の電波で流し、犯人に知恵をつけてしまう。

田宮さん(元警視庁捜査1課長).jpg
コメンテーターのコメントなんて
田宮元捜査一課長くらいでちょうどよいのかもw
以前読んだ劇場型犯罪「犯人に告ぐ」でも
そんなシーンがあったが。

 世界に君臨する大国という看板は、単にそれが
 軍事力によって裏付けられたもので、アメリカ人が
 それに相応しい資質を持った国民であるということと
 同義語ではない。何しろアメリカ人の六割は、
 一歩たりとも国外に出ることなく生涯を終えるのだ。
 他国を蹂躙し、自分達の行為がすべて正しいものだと
 信じて疑わないのは、そうした田舎者の集団で
 国家が構成されているのも要因のひとつだ。
ラベル:無限連鎖 楡周平
posted by PON at 21:00| ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(ミステリ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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