2011年10月17日

「戦鬼たちの海」白石一郎

戦鬼たちの海―織田水軍の将・九鬼嘉隆
(文春文庫) 白石 一郎 (著)

九鬼水軍は日本初の艦砲射撃と揚陸戦を
実施したとされる・・らしい。へー。

簡単にいえば、大会社を一代で作り上げた
名物社長(信長)を、常に横から見ていた
現地採用社員(九鬼)が、支店長クラスにまで
出世する話。

あらすぢ
内容(「BOOK」データベースより)
織田信長が天下一統を志して伊勢、志摩の平定に
乗り出したとき、志摩の土豪から身を起こした
九鬼嘉隆(くき よしたか)は真っ先に
信長の麾下に馳せ参じた。信長の知遇を得て、
九鬼の運命がひらけた。文禄の役で織田水軍の
総大将として海戦に明け暮れた戦国大名の
数奇な人生を聞く
長篇時代小説。第5回柴田錬三郎賞受賞作。

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九鬼嘉隆は、ご存知織田水軍の武将。
水軍とは要するに戦国時代の海軍のことだが
当時、海で乱暴狼藉する連中は一緒くた
「海賊」と「海軍」の区別がついていなかった。

小説の中では、織田信長が
「織田海賊では聞こえが悪い、織田水軍にせよ」と
改名を命令していたりする。
(ここで「織田海軍」って思いついていれば
 さすっが時代の最先端信長さん!となるのだが
 それでは話ができすぎ・・)

戦国日本人の頭の中は
「海=自由な外界への出入口」ではなくって
「海=それ以上外に進めない壁」
と多分に思っていたようで

要するに、海など真っ当な武士が行く所でない、
陸で上手くやれなかった連中が
最後に吹きだまるところと考えられていた。

日本の陸の代々の権力者は、海にあんまり興味がなく
その重要性も、戦い方も理解していない。
信長も「ウチと仲のいい琵琶湖の
水軍を部下につけようか?」と
提案してきて、さすがに九鬼も
「海と湖では自ずと戦い方が異なりますれば・・」
と断っていたりする。

信長の提案は命令であって、本来ならば
不興を買ってもおかしくないところ。
そか、そんなもんか、と言ったかは知らんけど
信長もそれ以上、追求せずに九鬼に全面委任したり
それほど海の戦いを理解していなかった様子。
この頃の信長はまだ、陸の戦いでおおわらわ
だった(第一次信長包囲網で苦戦中)てのもある。

九鬼家というのは、先祖が200年前に
志摩地方に流れ着き、相当強引な手法
(戦争というよりは連続殺人に近い)で
志摩地域に勢力を拡大。地元の海賊豪族に
代々恨まれた一族。

九鬼嘉隆も、初めは地元の豪族同様、
日本の統一なんか微塵もなく、ただ一族と土地を
守るだけに汲々としていた田舎侍だった。
結局、守りきれず一族郎党で、志摩を脱出する
ことになってしまうのだが、一族郎党が全滅せず、
いざとなったら船で脱出するあたり、
非常に海賊らしくて、土地や名誉に
執着してしまうオカの侍とはメンタリティが違う。

嘉隆も地方豪族にしては合理的な男であり
例えば、当時の海の戦いで、船の櫓をこぐ人を
狙うのは卑怯、という海戦の暗黙のオキテが
あったらしいのだが、殺し合いに卑怯など無いと
平気で敵船の櫓から狙ったりしている。
だから九鬼家は嫌われるわけだが。

ちょっとだけ他より行動力があって
頭もよかった彼は発想を転換。
イチサラリーマン技術者(スキル「海戦」)
飛ぶ鳥を落とすイキオイの織田家に転職する。

九鬼家時代には、駆逐艦を維持するだけで
精一杯だったのに、信長は織田水軍の名に
恥じぬよう水軍を作れ!と戦艦を大量生産できる
金を嘉隆に一任する。その懐の深さと
任せたからには、結果を出さないと
追放されてしまう徹底した実力主義にも敬服。

嘉隆は、滝川一益の与力として織田家にて
織田家の集団戦法、目的のために手段を選ばず
ただひたすら織田家拡大に邁進する、
信長の部下達の働き、恐怖と欲で人を支配する
領土拡大手法を目の当たりにし
これまで自分達、地方豪族がやってきた事は
戦とは名ばかりの児戯に過ぎないこと、
あれほど強敵で憎かった、自分達を追放した
志摩の豪族達と後年、相対したとき、
彼らがまるで敵ではないことに気づくのだ。

このあたりの描写は見事。

九鬼嘉隆が、どんなに頑張ろうとも
結局オカの政治情勢にそれほど寄与することもなく、
内陸(というか地上)では史実どおり
本能寺の変があって関が原の戦いがあって
都度、翻弄される九鬼家。

海賊大名・九鬼嘉隆を、
戦国の世を颯爽と駆け抜けた男として
カッコよく描こうとしている小説なんだが
嘉隆が本家筋の甥っ子を、なんの落ち度もないのに
あっさり殺してしまうあたりに
史実だとすれば、やっぱこのヒト
根っからの海「賊」だわ・・と思った。

それと読んでいる最中、隆慶一郎先生の作品
「影武者 徳川家康」と
「見知らぬ海へ」を思い出した。
前者では息子、守隆の意外な活躍が
後者では嘉隆の海のライバルとして活躍?した
向井正重の息子、向井正綱が登場する。
(さてこれから正綱のカッコイイ戦いが・・
 というところで作者急逝のため、終了した作品)

今度、信長の野望(烈風伝)をやるときは
九鬼くんを大事にしようかな。



九鬼水軍が、朝鮮出兵で活躍しなかったのを
不思議に思っていたのだが、この小説で
なんとなく理解した。
それにしても、ムカつくぞ。脇坂安治には。
関ヶ原といい、抜け駆けの海戦といい・・。

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posted by PON at 21:00| 神奈川 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(歴史) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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