人工調味料を使用しないのがウリのお店。
住宅街にあって、営業成績が芳しくないため、
近々閉店を考えているらしい。
そこのマスターと話す機会があった。
一見、普通のラーメンだけで
一杯800円前後は確かに高い気もする。
しかし、このお店のスープはスープだけで
おかずになる。
羅臼産の昆布や塩に至るまで、
店主の好みや産地にこだわり、何度も試作を重ねた
店主のラーメンにかける想いの結晶だ。
スープの仕込に2日はかかる。
舌馬鹿なPONでもわかるくらい
美味しい。
人工調味料をふんだんに使ったスープの場合、
飲み終わると舌がびりびりする。
不味くはないが、決して
「あー美味しかった」というような後味とはならない。
それはカップ麺のスープを飲み干せばわかる。
手塚治虫氏といえば「鉄腕アトム」
ところが彼は氏の代表作たるこの漫画が
嫌いだったそうだ。
彼の作品はヒューマニズムにあふれ
子供に読ませたい漫画なんて一般的評価が
蔓延しているが、あれは嘘だと思う。
彼の本質は極めてシニカルでダークに満ちた世界である。
氏は日本で初めて毎週放送する
アニメーションを製作した偉大な先駆者だが
その製作により日々増え続ける
借金を返済するため、
そう、ただ喰うだけのために「鉄腕アトム」等
社会受けするいわゆる「子供向け」漫画を
描き続けたといわれる。
自分の描きたいものと、
社会の求めているものと、
ベクトルが一致している表現者は幸せである。
だが、残念なことに
大抵の場合はそうならない。
大衆に迎合して自分の信念を曲げるか、
描きたいことを自由に描くけど
社会から取り残されるか。
ラーメンというジャンクフードに
大衆が求めているもの、
それは800円も払うならば、
多少舌がびりびりしてもいいから、
半ライスに餃子くらいつけろよ!
ってなもの。
「世間は俺の味を判ってくれない。
もう辞めるつもり。辞めたらもう二度とラーメン作らない。」
店主の魂の叫びと、重く受け止めたが、
プロだったら描きたくなくても
歯を喰いしばって「アトム」を
描かねばならないのだと思う。
(決して人工調味料ラーメンを推奨しているわけではなく
売れないなら売れる方法を考えるのがプロってこと。
時には苦汁をなめても。
ただ、この点は誤解しないで欲しいが
店主のことを責めている訳ではありません。
人にはそれぞれ他人には見えない事情がありますから。)
嗚呼、ラーメンが食べたくなった。