2012年04月12日

「火の粉」雫井脩介

「火の粉 雫井 脩介」

彼の作品では「犯人に告ぐ」を読んだ。
非常に読みやすい文体で好きな作家である。

【裁判官に必要な資質は?と問われ・・】
― 人間が好きってことですね。

あらすぢ
「私は殺人鬼を解き放ってしまったのか?」
元裁判官・梶間勲の隣家に、二年前に無罪判決を
下した男・武内真伍が越してきた。
愛嬌ある笑顔、気の利いた贈り物、老人介護の
手伝い・・・。武内は溢れんばかりの善意で
梶間家の人々の心を掴む。しかし、梶間家の
周辺で次々と不可解な事件が起こり・・・。

***********************

面白かった。ほぼ一気読み。

読み進めるうちに意外な人物が
物語を引っ張ってゆくことになり
その辺にも驚いてしまった。
梶間勲君、キミなにやってんの?

【日本の制度は加害者に優しすぎるといわれ・・】
― 社会をひとつの大きな生物と考えた場合
 悪いところを切り捨てていっても強く健康な
 生物とはならないんですよ。生命力が一番
 大事なんです。生命力とは自浄能力であり
 再生能力であると・・。
(勲くん)

ほぼネタバレしますが、常にいい子ちゃんブり
高みから人を裁くうちに、どこかに人の心を
置いてきてしまった裁判官(勲くん)が、
圧倒的な悪意の前に家族を曝され、それでも
果たして「いい子ちゃん」でいられるのか?
そんなキレイ事言ってられるのか?というお話。

【かつてのライバル?の検察官に】
― つまりはこういうことでしょう。
 あなたは今まで裁判席という風上から
 下々で起こる事件をまさに他人事として
 裁いてきた。ところが今度、急に風向きが変わり
 自分のところに火の粉が降りかかってきた
 もんだから、びっくりして慌てふためいている
 わけです


裁判官も人の子。死刑判決=人殺しなわけで
できれば下したくないという思いがある。
法曹界の住人は裁判官も検察官も弁護士も
ムツカシイ言い回しを操っては、周囲を煙に巻き
自己を正当化することには長けている。
(それは「枝のん」を見ればよくわかる)

― はん、裁判なんてアテになるかよ。
 あんなの伝言ゲームなんだよ。
 最終的には、現場を見たこともない人間が
 人づての、証拠かどうかもわかんないようなのを
 参考にして判断するんだろ。


一方、人が人に何かをする、ということの裏には
完全なる見返りまでは求めていないにしても
せめて「有難う」の言葉くらいは
期待したいのが人の心というもの。

― 0円ならまだいい、なぜわざわざ3万円という
 価値をつけようとするのか?


よくできた昭和的妻である元裁判官(勲くん)の
奥さんが放つこのへんの恨み節は圧巻。
そしてこの恨み節は単にひとつのエピソードかと
思いきや・・後からボディーブローのように効いてくる。

ジブンには元裁判官(勲くん)の息子である
「俊彦」の存在がいちばん怖かった。
なぜかって、ああいう状況下でPONがいちばん
そういう役割を演じてしまいそうなキャラだからだ。
妻を馬鹿にし、母親を見下し、自己の判断力に
自信があるから、一度下した判断は変えようと
しない。そんなところは親父譲りかもしれない。
しっかりしている所も時々見せるが、その力を
発揮する場所を、てんで間違えてしまう男。

ヤツはいっそ死んでもいいとすら思った。
こういったノンキ野郎が法曹界を目指したら
いつかまた父の悲劇を繰り返すかも。



実際、法曹界の人間には司法試験合格
最優先で青春時代を費やし、自動車免許も
持っていないのに自動車事故を取り扱うような
例もあるというが。



このアホ息子(俊彦)に未来があるなら
これを機会にもう少しマシな人間になって欲しいものです。

文庫: 577ページ
出版社: 幻冬舎 (2004/08)
言語 日本語
ISBN-10: 434440551X
ISBN-13: 978-4344405516
発売日: 2004/08

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控訴するのは検察側、弁護側の自由だが、控訴審でも
第一審の判決はかなり重要視される。第一審こそ
事件が風化しないうちに行われた生々しい裁判だからだ。
多少の量刑の変動はありえるが、まずは控訴棄却が
ほとんどである。一審の判決がどんなに理不尽に
見えようと二審で有罪が無罪になったり、その逆といった
極端な判決の揺れは望めないといった方が正しい。
posted by PON at 21:00| 神奈川 | Comment(2) | TrackBack(0) | 読書(ミステリ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>安世様
コメント有難うございます。

>最近読んだ「途中の一歩 上・下」は、
>どちらかといえば人間ドラマ系かと。
>結構量が多いですが、さらりと読み切れた。
読書家なんですねえ。

>雫井さんにはテンポの良いのを期待してます。
そうですね。
拙ブログでございますがまたお越しください。
Posted by PON at 2012年09月26日 12:35
シビアな作品傾向からの変化。

「火の粉」ってすごい作品ですね・・・。
読んだらわだかまりが心の中に残りそうな気がしますが、
読んでみたいな、というのも正直なところ。
「犯人に告ぐ」とか、「犯罪小説家」それから
スポーツを題材にした作品とか、
結構シビア系の作品が多い印象だったんですが、
最近読んだ「途中の一歩 上・下」は、
どちらかといえば人間ドラマ系かと。
結構量が多いですが、さらりと読み切れました。

ネットで他の本も探していたら、こちらに
たどり着いたのですが、
こちらのほかにも雫井さんを解析?している
サイトがあって、ちょっと驚いた〜。
http://www.birthday-energy.co.jp/

「発想も大胆で、素材を見つけて加工するのが得意」
だったり
最近は「恋愛や家族物にまで作風を拡げた。」
とか。
雫井さんにはテンポの良いのを期待してます。
Posted by 安世 at 2012年09月23日 22:16
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