東宝特撮王国より。
東宝特撮にしてはめずらしく怪獣が
出てこない映画。
冷戦下で、核戦争の危機を大いに煽る
作品としては、東映アニメーションが
作ったアニメで「FUTURE WAR 198X」って
作品があった。
一部では有名だけども、東映は昔から
「労働組合」の力が非常に強く
「FUTURE WAR 198X」は非常に好戦的な
アニメであり、製作には応じられない
ナーンセンス!と当時経営者側と喧嘩したらしい。
非常に時代を感じさせるエピソードだけど
東映経営者側は、あくまで反戦映画だとして
製作を強行するも、反戦映画とかそういう話じゃなく
見事に駄作映画だったのを思い出す。
(あの宮崎駿氏も昔、労組でバリバリ活躍
していたらしい。左翼運動に挫折した
オシイ監督の作品は人があっさり死ぬもの
が多く、左翼運動に取り組んだ宮崎カントク
の映画では人が死なない、と指摘している
アニメ評論家がいたな)
・・が、まあそれは別の話。
「平和を無駄遣いしちゃあいけねーや」
<あらすぢ>
世界各地に連鎖反応的に起りつつある侵略と
闘争は、全人類の平和を危機に追いつめていた。
核戦争の鍵を握る同盟国側(東側)と連邦国側
(西側)は、一触即発の状態を続けていた。
戦争が始まったら、間違って押したボタン一つから
でも音速の十倍以上で飛んでくるミサイルが、
全人類を灰にし、地球は取返しのつかないことに
なってしまう。全人類が一つになって原水爆禁止
のための何かをしなければならないのだ。
日本の一市民である田村茂吉(演:フランキー堺)
はアメリカ・プレス・クラブで運転手として
働いている。彼は戦後の焼け野原から裸一貫で、
ささやかな幸せを築きつつあった・・。
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フランキー堺が演じる主人公、田宮は
アメリカ・プレス・クラブの
お雇い運転手なもんで耳が早い。
(PONは役柄をずっとタクシー運転手だと
思ってたが違ってました)
後部座席に乗るアメリカのダンナ達、
アメリカ・プレス・クラブの記者が
世界情勢は深刻であることを折に洩らしても
田宮にとっては儲け話にしか思えない。
動乱が近いと感じ取った田宮が
最初にしたことといえば、車を止め
街中の赤公衆電話から、証券屋に
「鉄鋼」と「造船」会社の株を買うよう
指示するのである。
「かあちゃん、この辺の地価、坪10万だってさ!」
へへへ、と含み笑いをする夫婦
戦後の焼け野原から再出発。
ようやくここまで来たという、
誇りと幸福をかみしめる小市民一家。
かあちゃん(演:乙羽信子)にも苦労かけたなあ。
これからは少しラクさせてやるからな。
神経痛がひどくて・・と辛そうな
奥さんに代わって庭先にチューリップを
植えるフランキー堺。
フランキー堺は、戦争(殺し合い)を
どこか遠くのことと捉えている
典型的な日本人として描かれており、
日本人の意識は今日も変わっていない。
アイスランドで冷戦は終結したかもしれないが
現代のほうが大国の締め付けが緩くなった分
下手するとこの映画が作られたときよりも
状況はヤヴイ、とずっと思っている。
いまだ我々はフランキー堺のことを笑えないのだ。
そこにこの映画の怖さがある。
特撮はややチャチいところがあるし
映画関係者も特撮映画を作るのは得意だけど
当時の軍事兵器や社会情勢には、あんまり
詳しくなさそうだな、と感じさせるシーンも
多々見られる。が、そんなことは瑣末なこと。
この映画、やはり一回位は観ておきたい。
ミサイル落下間近の東京。
発狂したかのような真っ赤な夕陽に向かい
フランキー堺は、自分が立てた我が家の
つつましい物干し台から泣き叫ぶ。
「かあちゃんには別荘を建ててやるんだ!
息子には大学へ行かせてやるんだ!
俺が行けなかった大学へよ。
娘には、盛大な結婚式を挙げさせてやるんだ!
次女はスチュワーデスにさせるんだ!!」(意訳)
俺もフランキー堺みたいに絶叫するしかないだろう。
フランキー堺には、似つかわぬ娘がいて
(演:星由里子・・きれいだ)
彼女には父親に内緒で付き合っている
外国航路の航海士の彼氏がいる(演:宝田明)
彼女は宝田明と洋上でも会話ができるように
アマハムだかモールス信号だかのの
免許を取得するくらいの熱愛ブリ。
そしてそれがラストの(ささやかな)布石になる。
「コーフクダッタネ・・」
敵国の核ミサイルが東京に迫る。
由里子は東京だが、宝田明は仕事で洋上。
カクジツに迫る、二人を引き裂く最期。
二人の最後の会話を無線で交わす
シーンは胸をうつ。涙そうそう。
(ちなみに宝田明の船長は
東野英治郎≒南雲中将である。
そのまま敵国へ海の荒鷲を飛ばしてくれ!)
船のサーバー(演:笠智衆)が他人事のようにつぶやく。
「そうですか・・人類は消え去ってしまうのですか。
人類ってのはそれほど悪くはなかったんですが」
淡々ブリがまたいい。
船は洋上なので直接の被害こそなかったものの
ふるさとは、既に放射能とガレキのみ。
一同はそれを承知で、なお日本に戻る決意をする。
無力な市民にはどうしようもない悔しさ。
この映画で平和の大切さを身に染みて感じたとしても
実際にわれら一般民にいったい何ができよう?
圧倒的な絶望感が伝わる。
ひたひたと戦争の足音が聞こえるたびに
「なーに、たいしたことねえやな」と
根拠もなく否定、必要以上に強がる
フランキー堺だったが、最期の時は唐突に訪れた。
「俺たちは何も悪いことなんてしちゃいねえ。
こんなささやかな幸福が消されるんだとしたら・・
神も仏もいねーことになる。
こんなバカな話があるか!」
キャスト - 世界大戦争
出演
フランキー堺 (田村茂吉)
乙羽信子 (田村お由)
星由里子 (田村冴子)
富永悠子 (田村春江)
阿部浩司 (田村一郎)
宝田明 (高野)
笠智衆 (江原)
白川由美 (早苗)
ジェリー伊藤 (ワトキンス)
中北千枝子 (おはる)
坂部尚子 (鈴江)
石田茂樹 (有村)
野村浩三 (石橋)
三田照子 (伊本)
東野英治郎 (笠置丸船長)
清水由紀 (商事会社の女事務員)
森今日子 (船会社の女事務員)
中野トシ子 (近所の人(1))
一万慈鶴恵 (近所の人(2))
山村聡 (首相)
上原謙 (外相)
中村伸郎 (官房長官)
河津清三郎 (防衛庁長官)
高田稔 (司令)
スタッフ - 世界大戦争
監督 松林宗惠
特撮監督/特技監督 円谷英二
脚本 八住利雄
木村武
製作 藤本真澄
田中友幸
美術 北猛夫
音楽 団伊玖磨
録音 矢野口文雄
照明 森弘充
スチール 田中一清
特撮スタッフ 有川貞昌
渡辺明
岸田九一郎
向山宏
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映画には「東京ミサイル防空司令部」
ってのが出てくるんだけど
今以上にミサイル迎撃とか技術がない時代。
レーダーでミサイル接近を感知して、
悲壮な顔でカウントダウンするだけ。
不思議な組織だ(苦笑)