2008年08月13日

「蒲生邸事件」宮部みゆき

「蒲生邸事件 宮部みゆき」

時は過ぎ去るとき、その痕跡を残す
 ―タルコフスキー

結構前の話かもしれないが、宮部みゆきブーム
って奴が、かつて読書界wにあった気もする。
遅まきながら、ハマってしまったPONです。
ここのところ(1ヶ月くらい)、読書から
縁遠かった自分ですが、同じく通勤時間が長く
読書好きな上司から借りた文庫です。
ひとつは、先日記事にした「理由」、そして
もうひとつがコレ「蒲生邸事件」。
大正時代の洋館で起きた
乙女チックフレーバーなミステリーものかなと
また勝手に勘ぐっていたら・・話の展開に驚いた。
これ、SFだったんだ・・。

あらすぢ
予備校受験のために上京した受験生・孝史は、
二月二十六日未明、ホテル火災に見舞われた。
間一髪で、時間旅行の能力を持つ男に救助されたが、
そこはなんと昭和十一年。雪降りしきる帝都・東京
では、いままさに二・二六事件が起きようと
していた―。大胆な着想で挑んだ著者会心の
日本SF大賞受賞長篇。

兵ニ告グ。勅命ガ発セラレタノデアル
一、今カラデモ遅クナイカラ原隊ヘ帰レ
二、抵抗スルモノハ全部逆賊デアルカラ射殺スル
三、オ前タチノ父母兄弟ハ國賊トナルノデ皆泣イテオルゾ
戒厳司令部

宮部みゆきさんの小説の題名は
潔いというかなんというか、非常に
簡潔でありまして、宮部みゆきブランドを
知っている読書家ならば迷わず選択する
でしょうが、まったく関心外の人間が
興味を持つには若干、弱いというか
詰らない気がします。だからといってこの
「蒲生邸事件」が、
「タイムトリップアドベンチャー 
 時のエトランゼ」wwとか
そういう題ならば、PONがもっと早くに
読んでいたかと言うと、そうでもないと思うんで
まあいいか。題名なんてそんなものかもしれない。

さて、ヨタ話のなかでさりげなく?ネタばれして
しまいましたが、この小説は「タイムトリップ」
モノです。

宮部さんの小説の良いところは、あやふやなところを
まったく残すことなく、しっかりと最後まで責任を
持って説明してくれるところですね。読者の想像の
余地や最後の余韻がないじゃん!とか思う方も、
ひょっとしたらおられるかもしれませんが、行間や
空気や雰囲気を心で感じろ!と開き直っておられる
創作物(映画とか小説とか漫画とか)に遭遇すると、
非常に高確率で
「なになに?いま何があったの?巻き戻して」とか
騒ぐPONにはこのくらいの方が丁度よろしいです。

タイムスリップものの醍醐味、主人公が過去の人々と
ふれあい、現代の戻ってきてから、その時代を改めて
検証するときに思い出される記憶と記録。
いつの時代も人は生きている。
その時代という軍隊に所属している「軍人」として。

ローレライのように、丁寧にその後が描写されていて
非常にほんわかしたものが残った。
蒲生邸に行ってみたくなります。
とってつけたような悪役が?ですけど。

臆病者は臆病者ではなくなって
異能者は人間として人生を送った
ではあなたは?という話。
良作。

終わった― 今、世界が閉じてゆく・・



昔、PONの伯母の前で「戦車図鑑」を読んでいたら・・

伯「PON君はこんなものが好きなのかい?
P「うん(どうせ分らないだろうと思ってテキトーに)」
伯「あたしゃ、この戦車見たことがあるよ?」
P「へ?」
伯「雪が積もった寒い日に、この日本軍の戦車が
  通りを都心へ向けて走ってゆくのを見たことがある。
  あれが226事件だったんだねぇ」

伯母さん・・失礼いたしましたw 

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「光こそが時間だ―光である時間の束縛を逃れて
 移動できる自分のような時間移動者は、異分子
 なんだ―だから光の恩恵を受けることができない・・」
(意訳)

「皇道派だろうと反皇道派であろうと、どちらも軍人。
 どっちの味方をしても変わりわないと思うのじゃよ。
 しょせんは軍の主導権争い内輪もめに過ぎん」

「歴史は自分の行きたいところを目指す。歴史を変え
 ようと歴史上の人物を抹殺しても、彼に代る別の同じ
 ような誰かが出てきて、同じようなことをするんだ。
 だから個々の人間の誰が死んだかとかは関係ない」
(意訳)

「未来を知った上でこの時代の人を批判する。
 それは抜け駆けだ。その時代その時代を手探りで
 生きている人間を高所から見おろす行為だ。
 やっていいことじゃない・・」

「それは「まがいものの神」なんだよ」

「過去は直したってしょうがないし、未来のことを
 考えて心配したって駄目なんだからね。言い訳なんか
 しなくってもいいように、精一杯生きるよ」
posted by PON at 21:00| ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(SF) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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