ひとつのミステリーじみた殺人現場(小説では
これを爆心地と呼ぶ)の周りに、ある家族は濃厚に、
ある家族はほんのちょっとだけ関わってくる。
表面上はごくフツーのニッポンの「家族」。
その複数の「家族」を通して、ときには昭和初期まで
さかのぼりながら、「家族」ってなに?
「血のつながり」って?ついでに「日本人」って何?を
眺めてゆく作品。
<あらすぢ>
東京都荒川区の超高層マンションで起きた凄惨な
殺人事件。殺されたのは「誰」で「誰」が殺人者だった
のか。そもそも事件はなぜ起こったのか。事件の前には
何があり、後には何が残ったのか。ノンフィクションの
手法を使って心の闇を抉る宮部みゆきの最高傑作がついに
文庫化。
読んでいて爽快なヒーローは出てこない。
(極悪なヤツいるケド)
次が読みたくなる「面白さ」のテンションを維持しつつ
謎を読み解かせてゆく作者の圧倒的な「筆力」に
感心することしきり。
宮部みゆき作品では、以前に「火車」を読んだけれど
この小説と基本的な構成は似ている。
まずガツーーンとしょっぱなに、???な事件を持ってくる。
その事件の根底には、実は何かしらの「社会問題」が潜み、
読み進むにつれ、たまたま事件の関係者になったにすぎない
今も日本のどこかで実在していそうな一般市民が
「ぽつりぽつり」とインタビュー形式の証言を繰り出し
それはやがて事件の核心へと収斂してゆく。
事情を小出しにして、読者を焦らせつつもダラケることなく
読ませる文章力と構成力はさすが。
小説においてあんまり構成に凝ると、読者(少なくとも自分は)
読む気がしなくなってしまう。頻繁な場面転換、語る時間軸が
前後したり、語る人間が変わったりと、やりすぎると話の把握
が苦痛になってきて、正直うんざりするものだけど、
宮部さんのすごいところは、話の切り出し方がうまく
また、変に真相の出し惜しみをしたり、分かりにくい
言い回しなどをしないので、すんなりと頭に入ってくる
ところだ。
ここからネタばれするけれど、
「火車」は、あの頃問題になり始めた「キャッシング・
クレジット問題」が根底にあり、この小説「理由」は
バブル経済と土地にまつわる暗黒話、「競売と居座り屋」
の話である。
火車にしても理由にしても今より10年ほど前の
日本社会なので、内容が多少古くなってきているのは
仕方ないけれども、文庫の厚さ(3cmはあるかな)を
モノともしない面白さはすごい。
角川スニーカー文庫だったら、おそらく
これ1冊を3巻以上に分割して販売するだろうね。
なにか読むものはないかなあ・・と活字中毒の方には
お勧め。もっともそういった方は既に宮部作品を
読破されていると思うけれども。
良作。
「舅が嫁に手を出したというような大時代的なことで
一人の女性の人生が歪められたなんて実感わきません
けれど・・だって時代は続いているんだもの。
どこかで一回まっさらになったわけではないもの・・
女がそういうふうに苦しまねばならなかった時代は
確かにあったんです・・薄皮一枚はいだ下には
まだまだ昔の生活感が残っているですよこの国は。」
(意訳)
「核家族なんていうけれど、私たちの周りに
純粋な核家族なんて一軒もありません。
みんな、親を捨てたり面倒見たり、子供に捨てられる
悪夢におびえたりと、家族の恐怖におびえているんです。
そういったいじましい話は山ほどありますよ・・」(意訳)
************************
管理人モチーベーション維持のため
クリックしていただけますと助かります!
↓ ↓ ↓
「日野市をはじめとする首都圏郊外の町では
・・「新しい所帯を作って出て行った子供たちに
取り残された親たち」と「親たちから離れて新しい生活を
つくろうとしている若い夫婦や若い親たち」が
相互にはほとんどつながりをもたないまま、
空間的には近い場所に同居している・・」
「気が小さくってお人良しのところがあるんですよ。
そのくせ、人を信じやすいんで・・」
「世の中には、法律違反をしても大丈夫なAクラスの
ルートがある。大切なのはルートを持つ実力者に
渡りをつけることであり、それさえ出来れば
怖いものはない」・・と旦那は本気で信じている
ところがあって
「女は三界に家なし」とかいうけれども・・
「たとえば料理の味付けとか、掃除の仕方とか、
生活の中できわめて実際的なところの主義で
一致さえすれば・・女性の場合、こういう好みの部分
さえ一致すれば資本主義者と共産主義者でさえ
一緒に暮らしてゆけるものなのだ」(意訳)
「大きな事件は、対岸の火事である限り魅力的であり、
根拠のない「噂」はつきものであるが、―作り話を
真実だと自分で自分を騙してまで― 事件に参加しようとする
「衝動」はいったいどこから来るのだろうか・・」
「人間にはただ「見る」というシンプルな行為はできないのだ。
「観察する」「見下す」「評価する」「睨む」「見つめる」
など必ず意味が伴う。」
「ごく一般の人間の行動範囲のなかには、薬害エイズ訴訟も
大蔵官僚の不正行為も・・まず存在しない。
「実体験」と「伝聞による知識」のふたつを、
「インプットされる情報」という枠で
ひとつにくくってしまうならば、現実と仮想現実の間に
相違はないと言ってしまうこともできる・・」
「おかしなものだ。家のくびきから逃れ、一個の人間として
自立するために努力し、それを渇望しているのは
「女」という性の人間たちであるはずなのに、その一方で
ただひたすら「血」や「親子のつながり」に回帰しようと
するのもまた「女」たちばかりだ。そして「男」はと
言えば―逃げてばっかりだ、オレみたいに・・。」
「今の若い人には、犯人の気持ちがわかるんじゃないかしら。
親のことなんか便利な給料配達人と、住込みのお手伝いさん
くらいにしか思っていないですものね」(意訳)
PONですこれはこれはご丁寧に。
ブログの更新が滞っていたり
結構、本職が大変のようですねえ。
とにかく、無理をなさらぬように。私も
そのうちまた、ふらりと顔をだすことも
あるやもしれません。そのときはなにとぞ
よしなに。草々。
>実際、宮部の「ブレイブ・ストーリー」は
>スニーカー版は確か4分冊でしたよ。
なるほど。やっぱそうですか。
宮部みゆき氏はTVゲーム(特にRPG)
マニアなのだそうですね。その結実が
「ブレイブ〜」らしいです。自分は読んで
ませんが、その筋(どんな筋?)では好評
だそうで。マルチな才能ですねぇ。
>面白いのはわかっているんだけど、何故か
>宮部に手が出ないのは、
お子様云々はともかく、そういう存在の
作品ってありますよね。そして得てして
その、近寄ろうとしない、自らの嗅覚は
あたっていたりしますよ。
(世間的には好評なんで無理して読んでみたら
自分のシュミには合わないなんてのは
ザラですよね)
とにかく、今のるしは氏は、業務も趣味も
キャパオーバーな感じを受けますので
ジャンルに穴があっても良いのでは
ありませんかね。ご自愛ください。
>これ1冊を3巻以上に分割して販売するだろうね。
さすがPONさん鋭いね。
実際、宮部の「ブレイブ・ストーリー」は通常の文庫版と別にスニーカー文庫版が刊行されたわけだけど、普通文庫は上中下の3分冊だったのに対し、スニーカー版は確か4分冊でしたよ。
面白いのはわかっているんだけど、何故か宮部に手が出ないのは、きと俺がまだまだお子様だからだろうなぁ。