2009年04月04日

「透明な遺書」内田康夫

「透明な遺書」 内田康夫

気がつけばすっかり上司が勧める文庫を読み
漁っておりますが、今回はコレ。浅見光彦
シリーズ
「透明な遺書」です。前回、同シリーズの
「鐘」を読み、初めて「浅見光彦」という存在を
知りました。2時間ドラマなどではおなじみで、
水谷豊さんが演じたようですけど・・なんか
あったみたい
ですね。てな訳で頭の中は「水谷豊」
(若干若めのころの・・)で翻訳しながら
読み進めました。

―昔、日本沈没という映画があった。なにより恐ろしい
と浅見が思ったのは、平穏な生活の裏で、静かに確実に
崩壊が進行しているという部分だった ―

<あらすぢ>
「警察は自殺だと言ってます。でも、私は自殺だ
なんて信じてません」福島県喜多方で排ガス自殺と
断定された父の死因を承服できない清野翠。翠の父の
友人であった「歴史と旅」藤田編集長の依頼をうけて
浅見光彦は、彼女とともに残された“透明な遺書”を
よりどころに、正々堂々、喜多方にむかうのだが。
内容(「BOOK」データベースより)

文体はとっても読み易い。持って回った書き方もなく
すらすらと頭の中に入ってくる。文章を書くことを
職業とする方にはお手本にして欲しいほど。

我らが主人公が名推理を見せる。さすが「浅見光彦」!
凄いぜ!というよりも、このワールドの創造主=神である
内田康夫さんが、浅見に成り代わって演じているんだから
それくらい知ってて当然・・という感じも受けます。

それと完全無欠の兄が、エリートで警察庁の刑事部長を
務めているいるって設定もなあ。
浅見光彦シリーズでは、基本的に兄貴が兄貴なんで
「警察」というものは、困ったところもあるけれど、
市民社会最後の良心の砦となりうる存在として描かれている。
浅見が困った時には(個人の力ではどうにもならなくなる時)
バックに警察(兄貴)の影の援助がある。
ネタばれだけど、今回の話では主人公は、そんなの頼りに
なる「警察」と、更に言うなら、警察や公安もそのボスは
政治屋なわけで、その体制と図らずも喧嘩(対立)する
ことになってしまう。

内田康夫氏の小説はなんとなく「ブロック」方式な
気がする。著作はまだ二冊しか読んでいないけれども。
主人公が不得手な分野、例えば、暴力で困ったとき、
あまり知らない分野の情報を入手したい時など、
決まって(都合よく)それらを補てんしてくれる存在が
「ごそ」っとブロックのように話の流れの中に表れる。
まあひとことでいえば「ご都合主義」なんだが。
エンターテイメントであるならば、これでいいと思う。
肩もこらないし。

例えば、前に読んだ「鐘」であれば、「鐘」製作所の
気のいい社長の話(まるっきり社会見学みたいな描写)
が延々と続き、それが話のブレイクスルーにつながり
この作品にしても、主人公、浅見が持ち合わせていない
分野(政治や権力)で行き詰ると、スーパーなお兄さんが
出てくる。

非常にテレビドラマ化に向いた小説なんだな。
あまり時間軸が混み入った描写もなく、適度に地方都市も
出てくるから、撮影クルーが出かけるにも良い。
「鐘」→尾道、因島、高松、富山(高岡)
「透明な遺書」→喜多方、富山
それから今回も「金」の話のはずが実は「鐘」だった
なんていうようなトリック?もありました。

これに近いものと言えばロールプレイングゲームの
シナリオかな。主人公が独力で未来を切り開いてゆく
というよりか、主人公に活躍してもらうために
すべての謎はあらかじめ用意してあります・・の感。
そんなこと言ったら、すべての小説がそうでは?と
突っ込まれそうだけど。

この主人公、浅見さんは、事件に関連する女性に
妙にモテルんだけれども、007のボンドガールの
ように、一話につき妙齢の女性一人出てくる設定で、
しかも映画寅さんのように、その誰ともプラトニック
ラブで毎回終了してしまうのだろうか?
主人公の恋愛が全く進展しないのは、作者の内田康夫氏が
現代の女性描写に不得手だからなのかもしれません。
この私でさえ、今どきの女性はそんな言い回ししねーだろ?
なんて思う時も少々。

― 人間が死によって失うのは彼の生命だけでなく、
彼の持っていた「情報」もまた大きな損失であることを
痛感した・・



実社会でも、秘書だの金庫番だのたいそうな方々が
突然、自殺してますよねえ。くわばらくわばら。



************************
管理人モチーベーション維持のため
クリックしていただけますと助かります!
  ↓ ↓ ↓
e8c67347.gif

<抜き出し〜ネタばれが嫌な人は御遠慮くださいまし>

「お父さんが亡くなられたのは、絶対に自殺ではない
 という信念が、あなたにあるかどうかの問題です」
「だったらこれは殺人事件です」

殺人のトリックを見抜いて・・
「そんな厄介なことをしますかな・・」
「完全犯罪を目論んでいる犯人にとって、厄介などという
 横着な考えはないと思いますよ」

警察がもっとも恐れるのは、犯罪ではなく犯罪に
対処する際の警察自身のミスだ。
警察や警察官には過誤があってはならない―という
「目標」が、いつの間にか絶対にありえないという
「真理」に変質してしまっている

兄は言った。「戦争だよ」
警察庁刑事局という組織―いやそこに留まらず、
警察・検察が総力をあげて、匹敵するかそれ以上の
強大な力と対決しようとする姿勢が兄の言葉からは
うかがい知れた。

「我々警察人は当然のことながら、日本の秩序を
 護ることが第一の使命だと考えている。その認識では、
 一般的な法秩序を護ることはもちろんだが、究極的には
 国の体制そのものを護ることに通じてゆく。国家の体制
 を護るため「体制の走狗」と言われながらも、小悪を
 見逃すという判断がときとして働くのは、そうした
 大局観があるからだ・・とはいえ、個々人にも正義感は
 ある」

「人間って、誰でも心の中に鬼が潜んでいるなのかしら」

「どうしようもないからと言って巨悪を放置しておいては
 ―日本の正義、我々の心の中の細々とした正義感は死んで
 しまう。心ある国民が現状を憂い、流れが変わることを
 期待しています。その国民が最後に望みを託すのは警察
 しかないじゃありませんか。体制としての警察には、
 いろいろあって動きにくくても、個々の警察官は、本来
 市民の中で一番熱い正義感を持っているはずでしょう・・」
(浅見氏が、頭の固い刑事に思わず説教するシーン)

殺された人の家族にも、ささやかながら小宇宙があったのだ。
「天上天下唯我独尊」
どんな理由があろうと、個人の宇宙を抹殺するのは
世界の宇宙を抹殺するに等しいと思うべきだ―。

「生贄ではなく見せしめでなければならない」
 生贄は免罪の儀式として完結してしまうが
 見せしめならば効果は持続する
 ―兄はそう言っているのだ。

末端の警察官ですら暴力団と組んでいる事件もあります。
中央政界や財界が結び付いた巨大犯罪に、警察や
警察官僚がまったく関与していない・・そう考える方が
よほどどうかしていると思いませんか?

大きな疑獄事件だとしたら、その証拠もまた何か
大きなものではと思いがちですけど、なんのことはない。
要は大きな金額が書かれた「領収証」ではないか・・

日本の政治は時々転覆寸前になりますけれど
なんとか復元するのは、日本の民主主義が
まだ細々と活きているからだと思うのです・・
posted by PON at 21:00| ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(他) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック