2008年08月14日

「日輪の遺産」浅田次郎

幽窓無暦日
(ゆうそうれきじつなし)
―監獄の格子窓に月日はない。使命という
 監獄の孤独にただ耐えよ・・ってことだよ。

またまた上司から借りた小説。借りてばっかり
ですが、「面白いよ」とひとこと。

「日輪の遺産」、日輪と言えば「ダイターン3
「日輪の輝きを借りて今必殺のサンアタック!」
ですよ。



まあ、順当に考えれば「ひのもと」日本ですな。
その遺産ですからね。しかもこの小説の発売当初、
副題に「消えたマッカーサーの財宝」とか
ついてたらしい。そんな副題考えた編集者はクビだ。
一部のコアな読者で、陰謀論とかM資金とかに
異様に興味があるヒト以外は、この時点で読みたく
なくなるよな。
いまどき「消えた財宝」なんて・・グーニーズかってのw
おかげで文庫版には、そんな副題無くなってますが。

あらすぢ
帝国陸軍がマッカーサーより奪い、終戦直前に隠したと
いう時価二百兆円の財宝。老人が遺した手帳に隠された
驚くべき事実が、五十年たった今、明らかにされようと
している。
内容(「BOOK」データベースより)

現代の「おとぎ話」ファンタジーってところか。
「おとぎ話」ってーと荒唐無稽で真面目に読むに
値しないな物語って感じに、思われるかもしれませんが、
さにあらず。読後になんかちょっぴり「元気」が
湧いてきます。そんな物語。

この小説を読めば、あなたも本当に「日輪の遺産」
の隠し場所を探しだし、生活がちょっと潤うことに
なるかもしれません。マジで。

海老沢という、社会的に潔癖症なボランティアが
でてくる。70年代の学生運動の学生がそのまま
90年代に生き残ってしまったような奴で、
ボランティアにのめり込むあまり奥さんを寝盗られ、
逃げられたかわいそうな男。こんなキャラは最後には
報われずに発狂(もしくは最初から発狂)して、
物語をめちゃめちゃにしかねない危うさがあるものだが、
この物語ではそうはならなかった。そのあたりは
やはり「浅田」流ファンタジーなんだなと感じた。

「太平洋の嵐」というマニアなら知っているゲームを
現代の子供が喜んでやっているシーンが出てくる。
きっと浅田さんが好きなんだろうな。
「これはね、日本が負けるとは限らないんだよ。
 カリフォルニアに上陸しちゃったりするの」
・・そう、そうなんだけどそこまでの道のりは
容易じゃないんだな。むしろ講和結ぶ方が早いくらい。

「老頭児」と書いて「ロートル」と読ませるらしい。
そういえば何気に使っていた言葉だけども
なんか字づら的に「大陸」から軍人が輸入した言葉
なのかも知れないな。あとで調べてみよう。

後半、読んでてこっちが恥ずかしくなるくらいに
マッカーサーが日本を評価するシーンが多発する。
出来すぎな気もするが、浅田次郎さんが歴史で実在の
人物のせりふを、ああまで好き勝手に改ざんするとも
思えないので、結構本当に言い残したセリフなのかも
しれない。改めて戦後の(文字通り戦争終結後)日本と
マッカーサーという人物に興味を持った。
時間があればマジに調べてみようと思う。

今の日本に少々うんざりで、戦中戦後史に興味が
ある方にはお勧めの本。



海老沢のセリフ。
「もういいですね、これで。
 僕ら、もう遺産を受け取ったみたいです」
「結論はもうとっくに出ているのではないかね?
 責任の自覚、そして勇気。結論はすでに君自身の
 うちにある―」
「自信は、ありませんよ・・」

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<ネタばれありの書き出し>

「そうだ神州は不滅だ。しかし皇軍が不敗だと
 いうわけではない」

「世界中を相手に戦をした「皇軍」が完膚無きにまで
 敗れ、敗れることの不条理を「なにか」で
 正当化しようとする」

「すべては狂気の沙汰である」

「あのな、社会奉仕って言葉はよ、ワシらが聞くと
 滅私奉公って昔のお題目を思い出させるのさ―
 これだけァわかるめえ。イヤな言葉だ」

「1トン爆弾だよ。今となっては無用の長物だが
 こうして見ると、我が軍にも空爆という戦術思想が
 あったというのは、ひとつの発見だな。なんで
 ああいった合理的な戦争を続けられなかったんだろう」
「戦争の決を白兵突撃に求める、そういった戦い方を
 だれもが信じたかったんでしょう・・」

「出てこいニミッツ、マッカーサー、
 出てくりゃ地獄へ逆落とし」」

「応急局地出兵権」・・陸軍大臣は独断で治安維持の
ための兵力を動員することが可能
→こんなものがホントに認められていたんだね。
 いわゆる「現場の判断」で勝手に動くことがお墨付き
 だった時代があるんだ。すげーなあ。
 統帥権とか、シビリアンコントロールとか
 それ以前の話だ。

「とかく過去の事物を愚かしいものだと決め付けるのは
 人間の生理でもある」

「―面倒なことが嫌いだ、という人間に限って、
 本当はもっとも面倒な性格である―」

「植民地いずれ避けることのできない
 独立ならば認めておきながらも、経済的支援
 という形で推進し、その見返りとして旧来の
 利権は呪縛する」
「マッカーサーは親子二代にわたってアメリカ
 唯一の巨大植民地フィリピンの王であった」

―マッカーサーはこう言ったそうです。
「本官の相談相手はもはや二人だけに絞られた
 ジョージワシントンとエイブラハムリンカーンだけだ」
 と。それを聞いて全国民が腹を抱えて笑った。
 退役軍人会とウィスコンシンの州民以外はね―

→このへん豊臣秀吉みたいだなあ。
 秀吉も、小田原を叩きのめしたあとに鎌倉に来て
 源頼朝の木像に向かって言ったらしい。
 「貴殿とワシは「天下友達」だ」と。
 物凄い自惚れというか自意識。

―マッカーサーが厚木に着いてひとこと
「メルボルンから東京までは長い道のりだった。
 だがボブ、これで、PAY・OFF(勝負あり)
 だな」

「団塊世代から4年も下れば、平穏な高度成長期の
 申し子の世代。彼ら一様におっとりして永遠の
 弟分だ。良くも悪くも海老沢はその典型だ」

「口ぎたねえ言い方をすれば、帝国陸軍てのは
 百姓の軍隊だったんだ。軍隊のおかしな習慣とかは
 そういった無知で無教養な百姓の倅ドモを軍隊に
 仕立てあげるために考え出されたのさ―教育さえ
 マトモなら世の中幸せなんだ・・・」

マッカーサーいわく
「私が屈服させたのは、ほんの一瞬この国を
 支配した軍閥と愚かな政治家どもだ。そんなのは
 この国のほんの一部でしかない。日本が太古の自然の
 造り出したダイヤモンドなら、われわれは石炭だ。
 確かによく燃えるが、燃やし尽くしたのは
 ダイヤモンドをつつんでいた価値のないパッケージに
 過ぎない・・」

マッカーサーいわく
「よく考えてみたまえ。この東洋の、何ひとつ資源もない
 島国が、世界を相手に4年間も戦ったのだぞ
 日本人の不幸は、その現実を作り出した
 自らのエネルギーに気が付いていない、という点だ」

5人の将軍(首謀者)
・森近衛師団長
・阿南陸相
・田中静壱
・杉山元帥
・梅津美治郎

マッカーサー幕僚団(バターンギャング)
・アイケルバーガー中将
・チャールズ・ウィロビー少将
・コートニー・ホイットニー准将
・サザーランド参謀長(失脚)
posted by PON at 21:00| 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書(ミステリ) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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