2011年10月15日

「アナン」飯田譲治・梓 河人

アナン、(上) (講談社文庫) [文庫]
飯田 譲治、梓 河人 (著)

 その少年は『未来』という名の扉を開けた!
 ホームレスの男と拾われた少年。運命の絆で
 結ばれたふたりの周囲で不可思議な現象が
 次々と起こる。「アナザヘブン」の作者が
 放つスピリチュアル・ファンタジー

作者の飯田譲治さんに罪はないんだけど
飯田というとワープの社長を
譲治というと「アウトランダーズ」の漫画家を
イメージしてしまうので、どちらにしても
なんかボリュームたっぷりな男性って感。

自分のつたない前知識では、この飯田氏とは
昔、武田真治とトヨエツが出ていた
超能力モノのドラマを作っていた気がする。

あらすぢ(上)
内容(「BOOK」データベースより)
東京に初雪が降った夜、高級料亭のゴミ置き場に
生まれたばかりの赤ん坊が捨てられていた。
その子を発見したのは、流という名の記憶喪失の
ホームレスだった。拾われた赤ん坊は「アナン」と
名付けられ、流と仲間たちによって育てられる。
やがて、アナンの周囲で不思議な現象が次々と
起こるようになる―。

************************

腰巻(帯)の惹き句がさ〜
「スピリチュアルファンタジー」
結果的に間違ってはいなかったんだけども
なんか俺には関係ない分野だなあと。
「スピリチュアル」・・「なんとかの泉」が浮かぶし
表題も「アナン、」ときてる。
中身がまるで想像つかないし
想像つかないって事は興味がわかない。

上司が、最近にしては久々ヒットだったと
いうので読んでみた。
・・で、結論。面白かった。

神に愛された子供を拾ってしまったドン底男が
奇妙で素敵な人生をおくる話。

キャラ設定にリアリティがない。
(すべてのキャラ、出来事が、すべて主人公
 アナンの人生ために用意されているといった感じ)
まあ、であるからこその「ファンタジー」。
RPGとかアドベンチャーにも感じられた。

単行本から文庫に書き換えにあたり
表題も「アナン」→「アナン、」に変わった。
理由は不明。モーニング娘。とかほっしゃん。
藤岡弘、に影響を受けたわけでもないだろうけど。

いろいろとどうでもいいケチをつけてしまいましたが・・
「あー、なんか読後感のよい小説ないかなあ」と
思われる方がいらっしゃいましたら、この小説に
安心して心をゆだねてよいでしょう。

けっこうギャグ?というかクスリとさせる
記述もあってさわやかな気持ちになれます。

あらすぢ(下)
内容(「BOOK」データベースより)
開かれた『扉』の向こうで、人類がみたものは!?
少年のまわりで次々と起こる不可思議な現象。
誰もが彼を求め、惹かれ、癒され、そして光を
みいだしていく。アナンは「進化した人類」なのか!?
ホラー映像の旗手が描く新境地!会心の書き下ろし
1400枚大巨編作品!!世紀末
スピリチュアル・ファンタジー、ここに誕生。

************************

なんかさー、あらすぢ書いている人も
書くことがなくなってしまったんだろうね。
ホラーも世紀末も関係ないし。
最後に「スピリチュアル・ファンタジー」という
奇怪な造語をムリヤリ出して、いーから読め!的
やっつけ仕事である。



小説そのものはNHKの朝の連続テレビ小説なんかで
採用されたら面白そうだ。俺は観たい。

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2011年07月09日

「クレイジーボーイズ」楡 周平

「クレイジーボーイズ」

クレイジーボーイズ 著者:楡 周平 角川文庫

上司が貸してくれた本。

あらすぢ
世界のエネルギー事情を一変させる画期的な発明を
成し遂げた父が何者かに謀殺された。特許の継承者
である息子の哲治は、絶体絶命の危地に追い込まれる
が・・・。

内容(「BOOK」データベースより)
父が何者かに殺された。サンフランシスコの海岸で
無惨な姿で発見されたのだ。父は、水素自動車を
普及させるための画期的な燃料タンクを開発し、
その特許の帰属を巡って、かつて勤務していた
日本の企業と法廷で争っていた。特許権が父に
帰属すると認定されれば、継承者の哲治には
莫大な金が転がり込む。悲しみを振り払い、
哲治は真相解明に乗り出してゆく。だが、
事件の背景には日米を股にかけた巨大な黒い影が
蠢いていた。

著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」より)
楡 周平
1957年生まれ。米国企業在職中の96年に『Cの福音』
で衝撃デビュー、同作はたちまちベストセラーとなり、
一躍脚光を浴びる。圧倒的なリーダビリティと
日本人離れしたスケールの大きさで読者を魅了する
エンタテインメント界の第一人者

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安心して読んでいられる〜。
わかり易い描写(だからって単純ってワケではなく
説明文的な文体)
思わせぶりな感じがなく
しっかりと種明かししてくれる
まるで宮部みゆきさんが
国際ポリティカル小説を書いているかのよう。

で、読後、印象に残ったのは巨大ア×ル。
だってキーはア×ルなんです。
ホントに。

ネタバレのようなもんだけど
風邪の特効薬を開発したヤツはノーベル賞がとれる!
と長くささやかれながら、
今後いくら医学が進んでも、結局開発されることは
ないだろうということ。
患者は喜ぶかも知れんが医者は嫌がる。
風邪程度のお客(患者)がこなくなるから。

今の原発利権が、もっともこの小説に近い。
原発よりも安全で安くて、という代替手段など
実はあるんだけど、絶対採用させない。
だって、原発廃止しちゃったら
原発利権の甘い汁がすすれなくなるじゃんか!
すべてはそういうこと。

VIVA 現金!

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2011年01月20日

「都庁爆破!」高嶋哲夫

「都庁爆破! 高嶋哲夫」

まあ、宝島社文庫だからね。
シンプルでよろしいのではないでしょうか。

主人公の友人で米海兵隊所属(中東系)の
男が言う。
「宗教は人間に災いだけをもたらすもので
 ある気がする。世界の大部分の戦争は
 宗教がらみだ。人間に平和をもたらすものは
 政治なのかもしれない」

ちなみにその友人は中東系だが「無神論者」
そんな設定の彼が
「人間に平和をもたらすものは
 政治なのかもしれない」
という言葉を言うのは少々突飛すぎな気がした。
それはあなた(作者)の持論だろーに。

あらすぢ
9・11後の世界では、いつどこで何が起こって
も不思議ではない。スパイ天国と言われ、
現実 にアルカイダのメンバーが暗躍する日本。
その 首都・東京の中心、新宿の都庁が突然
襲われた。
爆破、占拠、ヘリ撃墜、SAT隊全滅、崩壊する南棟…
そして次々に出される恐るべき要求。
そのとき、都知事や首相は、どう対処するのか。
やがて巨大なサリン噴霧器と化す都庁。
この悪夢のシナリオを描いたのは誰か。
その真の狙い は? 浮かび上がる意外な真実…。
テロの危機を訴える、
サントリーミステリー大賞作家渾身の
ハード・シミュレーション・ノベルの文庫化。

著者(高嶋哲夫氏)より
過激な題名で、内容もハードですが、それだけではなく
親子の愛情、友との友情、人間としての使命…を扱った
心温まる (???) お話なんです。まだの方は、
ぜひ、この 文庫で読んでみてください。
僕の書くものは科学的なもの が多いため、
難しそうと、よく言われますが、決してそんなことは
ありません。とくにこの本は、一気に読める
エンターテインメントです。どうぞご一読ください。

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これ、主人公は本郷じゃなくって「東京都知事」だね。

実在の政治家を当てはめて楽しむのも良いかと。
彼らにそれだけの行動力があるかどうかは
この際置いておいて。

それと驚くべきはこの小説、911テロの後
4ヶ月して刊行されたらしい。
道理で。小説全体に
「あれだけの事があったんだから、この際、これ以上
 世の中で何があっても驚かないよオレは」
的な空気があふれている。
何だかんだ言っても、あの惨劇から
もう10年近くが経過しようとしている今より
もっとタガが外れまくった世界のようだ。

抜群に頭の切れる、でも一本切れちゃった男が
余計なお世話から日本でテロを起こし
現場は奮闘するも政治に足を引っ張られ
市民に犠牲者が続出。
アメリカも味方とはいえない
この国の危機管理体制はどうなっているのか?
政治が機能していないとか、
万事、金で物事を解決してきたツケがここへ来て・・
とかなんとか。
国民は平和ボケで若者は全部バカ。
最後は主人公(だいたいは自衛隊か警察退職者)
とその仲間たちがダイハード。
尊い犠牲があって終了

まあ、ごくごく順当な
ポリティカル戦争テロシミュレーション小説?

特にひねった所もなく。
せいぜいテロリストのボスは実は・・・で
部下たちは・・・が出身母体だったところか。

「イスラム過激派の自爆テロならば要求などない。
 自爆こそが意思表示のはずだ。ジハードなんだ」


主人公とテロの首魁が討論する。
「−初めて意見があったな。政治家どもは決して
 自らの手を汚さない・・」

「日本人はもっとアラブの世界を知るべきだった・・」

「テロリストにあるのは憎しみだけだ−」



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2011年01月18日

「そのケータイはXXで」上甲宣之

そのケータイはXX(エクスクロス)で 上甲宣之

まー宝島社文庫だからねえ。

あらすぢ
内容(「BOOK」データベースより)
旅行で訪れた山奥の温泉地、そこは怪しい村だった―。
女子大生しよりと愛子を次々に襲う恐怖の事件。
今すぐ脱出しなければ片目、片腕、片脚を奪われ、
“生き神”として座敷牢に一生監禁されてしまう
という!?頼りの武器はケータイのみ!
二人は生きて逃げ出すことが出来るのか。
第1回『このミス』大賞で最大の話題を呼んだ、
息つく暇さえない携帯電話ホラーサスペンスの
最高傑作。

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まずはこの人、文がヘタ。

なんか本人的に気に入ったとみえる
言い回しとか比喩をここぞとばかりに使用してるが・・
読んでてうんざりだぞそんな描写。

突然、説明文になってしまうのが困る。
携帯の機能をいちいち説明し
さらに敵がソコまで迫っているってのに
ついさっき知り合った、顔も知らない男と電話で
「地方風俗文化談義」。
それもなんかの書き写しなんだろーか?
ですます調だし。

携帯の電池は大事に使わねば、なんて
決意したソバから長々と、電話の男と語り合うし、

話の展開も徐々にライトノベル化(赤川次郎化でも可)
それでいながら一応、マジメに人死がある話だから
あんまり楽しめない。

どんどん、読者の裏をかこうと、筆の進むままに
意外な展開をし続けたら、最後には破綻。
だからキャラの性格も破綻。
だもんで作者の想定のした動きを、キャラがしないで終了
・・みたいな、ヘンな小説だった。

ま、誰が敵なのか味方なのか
最後まで不安をあおりながら進む話は
それなりに面白かったけども。

トイレのバトルが長すぎだ。
いちいち自分の手の内を敵に説明するな。
「あんたは××のつもりで行動したのかもしれないが
 あたしはその裏をかいて○○したのだよぉぉぉぉ」
いいよ。そんなのは。

水野しより(みずの しより)
火請愛子(ひうけ あいこ)
土田弥生(つちだ やよい)

なんか「しより&愛子」で小説シリーズ化
しているようで。ふーーん。

にしても愛子さんの「キャハ!」はねえだろ
「キャハ!」は。お前だれだよ?
そんな言葉づかいの女、実在するのか?

「水」と「火」は相反するが、それらを
受け入れる余裕がある「土」と。
ってことはそのうち、「木」と「金」の
漢字の入ったキャラが出てきたら
そのキャラはレギュラー決定でしょう。



あとこの小説、既に映画化したらしい。
ネット上では否定的見解も多いようで
(B級ドタバタホラーだって。なんじゃそら?)
観る予定は今のところないが
キャストが気になったんで調べてみた。

水野しより:松下奈緒
火請愛子:鈴木亜美
橘弥生:中川翔子
西園寺レイカ:小沢真珠
朝宮圭一:池内博之
物部昭:岩尾望(フットボールアワー)

主人公(しより)は誰がやってもいいとして
キャハ女が「鈴木亜美」?
橘弥生って原作の土田弥生のことか?
「中川翔子」はないだろ。どっちかってーと
彼女はキャハ女のほうが良かったかもしれない。

物部(兄)が「岩尾望」ねえ。
なんかもうそのキャスティングが発表されただけで
かなりのネタバレな感じもする。
「ガリガリガリクソン」あたりが演じていたら
正に、正統ホラー映画だったかもしれない。
個人的に彼は大キライなので、出てこなくていいけど。

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ネタバレ・・
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2011年01月12日

「四日間の奇蹟」浅倉卓弥

四日間の奇蹟 浅倉 卓弥

四日間の奇蹟 (宝島社文庫) 浅倉 卓弥 (著)
またまた「宝島社文庫」。
「このミスがすごい」大賞だそうで。
なら仕方ないね。

あらすぢ
内容(「BOOK」データベースより)
第1回『このミステリーがすごい!』大賞・大賞金賞
受賞作として、「描写力抜群、正統派の魅力」
「新人離れしたうまさが光る!」
「張り巡らされた伏線がラストで感動へと結実する」
「ここ十年の新人賞ベスト1」
と絶賛された感涙のベストセラーを待望の文庫化。
脳に障害を負った少女とピアニストの道を
閉ざされた青年が山奥の診療所で遭遇する不思議な
出来事を、最高の筆致で描く癒しと再生のファンタジー。

************************

なんの前知識もなく読んでみたんだが
それがよかった。
中盤以降、あることが発生してから話が急展開する。
ええ?そういう方面に話が行ってしまいますか?
ほほう、てなモンですよ。

それまでの失意の元ピアニストと
彼が惰性で世話をしている娘(障害者)との生活が
たんたんと描かれるのだけど、ダラけることなく
読ませる力量は立派。
「新人離れしたうまさが光る!」というのは
ホントだった。

ワザワザこの文庫の巻末で「文芸評論家」までが
言及している、東野圭吾氏の作品と類似しているとか
一部ではいわれるようだが、まあこの程度ならば
ぜんぜん「パクリ」ではないと思いますね。



おお、やっぱ目ざとい邦画界。
映画化していたようで。

吉岡秀隆, 石田ゆり子, 尾高杏奈

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2011年01月11日

「葉桜の季節に君を想うということ」歌野晶午

「葉桜の季節に君を想うということ」文春文庫
歌野晶午(うたの しょうご)著

なんの前知識もなく、手にした小説を読んでみる
三色旗古本屋100円コーナーならではの楽しみ方。
ちなみに9/30をもってあの古本屋では
「Tポイント」が使えなくなった様子。

あらすぢ
いつものようにフィットネスクラブで汗を
流していた成瀬将虎は、ある日後輩のキヨシから、
彼が密かに想いを寄せる愛子の相談に乗って
ほしいと頼まれる。
久高愛子は、轢き逃げに遭い亡くなった身内が
悪徳商法業者・蓬莱倶楽部によって保険金詐欺に
巻き込まれていた証拠を掴んで欲しい、家柄の
手前警察には相談しにくいと依頼してきた。
同じ時期、将虎は地下鉄に飛び込もうとした
麻宮さくらという女性を助ける。それがきっかけ
となり、以後何度かデートを重ねる仲になる。

将虎の恋の行方と、保険金詐欺事件の真相究明、
2つの出来事が交錯する。

************************

面白かった。
2003年このミステリーがすごい第一位だそう。

まず「葉桜の季節に君を想うということ」
というジャンルが良く見えない表題。
そして「歌野晶午」という作家名。
「歌」ときて「野晶」というあたりが
なんか「与謝野晶子」あたりを思い出し
「葉桜の季節に君を想う」なんて
表現からして、要するに文学的フレーバーの
「純愛モノ」なのでは?と前知識の無い自分は
勝手にそう思いながら読み始めたのですがね・・。

軽いネタバレをすると、この小説は
ミステリー、しかも叙述トリックモノ。

主人公を慕う子分格の男「キヨシ」のことを
主人公は「舎弟」と呼ぶシーンがあるのだが
最近ではあまり使わない言葉だ。主人公の
この言葉遣いにPONが「アレ?」と
違和感を覚え、それが「ラストのオチに限りなく
ちかづいた瞬間」だった。



いつものごとく、作品に何かひとつケチをつける
ならば、作者は最後のオチを読ませるだけのために
中盤の文章に注力しすぎであるように思えるところ。
ストーリー中盤で起こるミステリーなんかは
割とストレートで重要視されていない。
つまりは少々話が出来すぎか。

そして最後に読者は
「葉桜の季節に君を想うということ」という
言葉の意味に気がつくわけ。

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そういえば、以前に・・(ネタバレ)
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2010年12月30日

「東京島」桐野夏生

東京島 桐野 夏生

東京島 (新潮文庫)  桐野 夏生 (著)

木村多江で映画化らしいじゃないですか。
小説を読む前は、まあお色気要員として
妥当な所なんではないか?と
思っていたのですが・・
読み終わって思うに、そのキャスティングは
ちょっと違うのでは??とか思った。



あらすぢ
あたしは必ず、脱出してみせる――。
ノンストップ最新長篇!

内容(「BOOK」データベースより)
清子は、暴風雨により、孤島に流れついた。
夫との酔狂な世界一周クルーズの最中のこと。
その後、日本の若者、謎めいた中国人が漂着する。
三十一人、その全てが男だ。救出の見込みは
依然なく、夫・隆も喪った。だが、たった
ひとりの女には違いない。求められ争われ、
清子は女王の悦びに震える―。
東京島と名づけられた小宇宙に産み落とされた、
新たな創世紀。谷崎潤一郎賞受賞作。

************************

谷崎潤一郎賞受賞作品で、男大勢に女ひとりの
無人島が舞台となれば、自然に純文学的エロ小説となり
文明のない世界で繰り広げる女の情念と
男の嫉妬がなんかもーネトネトぐちゃぐちゃ・・
ま、そんなところなんだろうな、と勝手に
想像していたのだが、違ってた。

確かにエロの要素も避けては通れないので
あるけれど、あらすぢにある
「清子は女王の悦びに震える―。」
というのは若干の大げさ。話は清子全盛から
斜陽時代に差し掛かってくるところから
スタートするんで、思ったよりも
性を武器にしてウハウハって描写は少ない。

むしろ、生き残るために必死だった彼女が
「島」で女を武器にした我が世の春を
謳歌し過ぎてしまったがため
コロコロ変わる無人島の状況
(主導権を握る男が変わる)のなか、
その後始末に追われまくる話。
「蠅の王」みたいにあそこまで陰鬱な小説に
ならなかったは、作者の人柄か。

ちょっとネタバレ。

「未熟な集団がそのまま
 未開の生活を送っているのだ・・」

島には順にいろんな団体が漂着してくる。
清子夫婦、日本人ドキュンの団体、中国人ドキュンの
団体・・その都度島の勢力図が変わる。

作者も最後に主人公を「ワガママな女」と
身もフタもなく総括しているけれど、
女性の持つハングリーさタフさとかしたたかさは、
やはり女性にしか書けないんだと思う。
清子と比べてなんと男ドモのシンプルなことか。
したかかさといえば、漂着する中国人達もだが。

(ワタナベがムカつくけど。彼が語学の天才で
 その後、実は・・ってのが
 さらっと書かれていて笑えた。
 石なんかに当たんなよw
 あの卑屈さ矮小さが全然変わっていないのが
 かえって微笑ましい)

結局、文明を失った人間たちが文明を
復興?させるまでの「創世記」。
遭難により文明を失ってしまった人間の
文明シミュレーション小説だった。

それにしても桐野夏生さんの文章力、想像力には
プロの小説家の力を見せつけられた。
この小説の前に角川ホラー常連、吉村達也氏の
「マタンゴ 最後の逆襲」(既紹介済み)を
読んだのだけど、文章力ってのは単に
本の厚みで表現されるんではなくって
吉村氏の作品もあれはあれで楽しめたけど、
なんか「小説」とは違う。小説の形をした
説明文って感じだった、あっちは。



もし、PONが無人島に漂着したとして
なりうるとしたらば、登場人物でいえば
「オラガ」になるような気がします。
そういや清子の3番目のダンナ
おバカの「ノボル」はその後どうなったっけ?

もう一度読もうっと。

文庫: 372ページ
出版社: 新潮社 (2010/4/24)
ISBN-10: 4101306362
ISBN-13: 978-4101306360
発売日: 2010/4/24

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アナタハンの女王事件
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2010年10月25日

「セルラー」(小説版)

「セルラー」

セルラー (文庫) メディアファクトリー
Larry Cohen (原著) Chris Morgan (原著)
真田 おいる (翻訳)

電車の中で拾いました。
読んでみました。
すぐ読み終わりましたが・・

あらすぢ
内容(「BOOK」データベースより)
高校の科学教師ジェシカは突然、自宅に侵入した
見知らぬ男たちに拉致される。監禁された部屋には
粉々になった電話が一台。電話線を復旧させ、
やっと繋がった相手は全く知らない若者ライアン
だった。ジェシカと家族に命の危険が刻々と迫る…
果たして誘拐犯の正体は?そして彼らの真の狙いは。

************************

びっくり。読後感ゼロ。感想もなし。
ハリウッド製アクション映画のシナリオを
小説仕立てにしただけなんで。
まあ、メディアファクトリーの文庫なんて
そんなモンだし、拾いモンだしね。

そしてこれまたびっくり。
教師ジェシカを演じるキム・ベイシンガー様が
御年57歳
だよ。

なんか、映画の方はそれなりに楽しめるみたい。

【映画版「セルラー」】
出演:
キム・ベイシンガー
クリス・エバンス
ジェイソン・ステイサム
ウィリアム・H・メイシー

監督: デヴィッド・エリス
時間: 95 分

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みんなを電話にする会社
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2010年10月24日

「閉鎖病棟」帚木蓬生

「閉鎖病棟」帚木 蓬生

帚木 蓬生(ははきぎ ほうせい) 新潮文庫

なんか、題名からして、富士Q系のああいった
ホラー系、もしくはサイコ系とか、そんなあたりを
想像してしまったんだけれど。

ここでは本来の語義「閉鎖病棟」における物語。
決してお仕着せのお涙ちょうだいモノではなく
作者のあたたかな視線を通し、社会は
「精神患者」と、ひとくくりにして隔離して
終わってしまいがちだけれど、彼らにも彼らの
生活があり、決して許されることのない過去が
あるにしても、それぞれに理由があるのだという
あたりまえの描写が伝わってくる。

こういうの読んでしまうと、機知外による
機知外な事件が起こるたび、危険人物は
みな病院に閉じ込めておけばいい!という
暴論におもわず頷いてしまいがちな
・・そんな常日頃の自分に
自信が持てなくなってしまいます。
 
<あらすぢ>
九州地方のとある精神病棟。患者たちは、それぞれに
退院できない理由を抱えながらも、互いに助け合い、
日々の瑣末な出来事に希望を見出しながら、明るく
暮らそうとしていた。しかし、皆で回復をあたたかく
見守ってきた通院患者の女学生に起きたある事件が、
やがては殺人に発展してしまう。殺人を犯した者、
それを知っていた者、彼らが守ろうとしたものは
何だったのだろうか。

************************

【入院患者仲間にもそれぞれ過去があり・・】
「患者はもう、どんな人間にもなれない・・
 かつてはみんなは何かであったのだ。 
 それが病院に入れられたとたん、患者と言う
 別次元の人間になってしまう。
 そこではもう以前の職業も人柄も好みも、
 一切合財が問われない。骸骨と同じだ・・」

「どげな親でも子を思う気持ちは強か
 ばってん、子が親を思う気持ちは
 天から地までの段階があるけね・・」

【病院の主ともいえる秀丸さんはつぶやく】 
「刑務所の暮らしは、来る日も来る日も
 自分のしたことを考えないわけにはいかないように
 できとる。けどここ(病院)は違う。ここの
 暮らしは楽しいけんね。ある日どっとツケが来るんよ」

【主人公に届く手紙】
「病院は天国ではありません。チュウさん、病院は
 ついの棲家ではありません。いつかは自分の力で
 飛び立たなければならないのです」

それにしても秀丸さん・・カッコいいです。



日本が敗戦しようと、その前からもずっと人は
生活してきたわけで・・まさに総力戦であった
あの戦争は人々の生活に大小さまざまな影を
落としていたんだなぁ。

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2010年10月23日

「幽霊人命救助隊」高野和明

「幽霊人命救助隊」高野和明 著
(文春文庫)

救助成功!

作者である高野和明氏の作品では
以前に「グレイヴデッガー」なる小説を
読んだことがある。
ハードボイルド志向なのに
エンターテイメントなところがあり
(そんなバカな苦笑・・みたいに)
どっちつかずな小説だったと記憶している。
正直なところあんまり期待していなかったのだが・・

あらすぢ
内容(「BOOK」データベースより)
浪人生の高岡裕一は、奇妙な断崖の上で3人の
男女に出会った。老ヤクザ、気弱な中年男、
アンニュイな若い女。そこへ神が現れ、
天国行きの条件に、自殺志願者100人の命を
救えと命令する。裕一たちは自殺した幽霊
だったのだ。地上に戻った彼らが繰り広げる
怒涛の救助作戦。傑作エンタテインメント、
遂に文庫化。

************************

いやあ、これは面白かった。
あらすぢにある通りエンターテイメント小説。
純文学が好きな方には向かないかもしれないが
そういった御仁は、むつかしい顔で
その手の小説を読んでいてください。

はじまりは、そんなバカな。

天国とも地獄とも思えない空間で
呆然とする彼らの前に神が降臨する。

「知恵と慈悲と狡猾さえたたえたその笑みは・・」

その登場の仕方があまりにトボけていて笑える。

神は、天国行きの条件に、自殺志願者100人の命を
救えと命令する。何故か?とかそういうギモンは・・

「神の言うことに間違いはないだろう。」
裕一は宗教にはつきものの教条主義に自らをおいた。

の一文であっさりと片付けられる。
そうだ。神が言うのだから仕方ない。

ひょんなことから「幽霊人命救助隊」を
結成することになった4名の幽霊。
・老ヤクザ
・気弱な中年男、
・アンニュイな若い女
・東大失敗受験生

それぞれが
戦前〜60年代(戦前生まれ)
戦後〜バブル前夜(団塊の世代)
新人類代表であり唯一女性の視点を持つ
そして現代の若者
といった各世代日本人代表であり
それぞれが持つ知恵と勇気と知識で
自殺志願者の救命に奔走、
現代ニッポン社会に生きるってホント幸せなの?
と問いかけ、ニッポンを総括してゆく話。

神から支給された装備品は・・
ハイパーレスキュー隊のような
オレンジ色の制服に身を包み、背中には
ご丁寧にRescureの文字。
携帯電話:救助数カウント機能つき
メガホン:彼らが大声で叫ぶとこの世の人の深層意識に
     訴えることができる
暗視ゴーグル:死にたがっている人間を
       見つけることができる     

彼らは幽霊であるが万能ではない。
空気のようなもんで、無機物は通り抜け不可。
生身の人間に憑依、意思を読み取る事はできるが
完全にコントロールする事もできない。
(それでも単純思考な子供や、鬱の人間などは
 比較的操りやすいらしく、そそのかすことは出来る)

いったん部屋に閉じ込められてしまうと
自力でドアを開けることもできないのだ。
そんなときは近所の小学生に憑依
ピンポンダッシュさせて家の人に開けさせたり・・

「人と人の結びつき」「心身の健康」「経済」などの
 試練で人の心は試されることになる
「それでもこの世を好きでいられますか?」と。

自殺を思いとどまらせるには
どうしたらいいか?作者なりの研究結果を
エンターテイメント小説として
発表してみた感じ。

鬱、リストラ、借金、いじめ、また鬱、鬱、借金・・

「気取った挙句に自殺を美化してしまうんだ
 単なる心の病気だってのによ?」

「この国は、なにかあれば死ねばいいという
 危うい風潮が出来上がってしまっている
 ―すべては反省されぬまま、自殺行為が
 正当化される赤穂浪士だって、もうちょっと
 殿様が辛抱づよければ死ななくて済んだ。
 けど生き残っていたら彼らは英雄になれない―
 たとえ歴史に名を残さなくとも、何があっても
 生き延びる人間の方が崇高
なはずなのに・・」

「人はただそこに居るだけで良いんです。」

自殺はワガママです。死んで楽になるのは当人だけ」

幽霊4名は、現代ニッポンの最前線で擦り切れ
自殺を考えるまでに追い詰められた人々を救ってゆく。

中には、コレまでの経験から言えば間違いなく
「鬱→自殺コース」直行しそうな状況におかれている
にもかかわらず、なぜか自殺などまったく考えない
人間も存在する。
そんな人間の思考回路も見もの。

彼らこそは、したたか(「強か」と書く)なのだ。

それくらいでよいのかもしれない。

「深刻に死ぬより、軽薄に生きましょう」
 
未来が定まっていない以上、すべての絶望は勘違いである

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2010年10月19日

「検察捜査」中嶋博行

最近、なにかとお騒がせな「検察」。

一般人が思っているよりはるかなレベルで
彼ら、検察のもつ「社会を牛耳っているのはオレらだ」
という度し難い「エリート意識」が
小説でありながら伝わってきます。

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「検察捜査」(講談社文庫) 中嶋 博行(著)

現役の弁護士が書いた小説。
「検察庁VS日弁連VS警察 あと 裁判所」

これらがみーんなナカよくって
虐められるのは市民ばかり・・だったとしたら
それはそれで困るけどね。

あらすぢ
横浜の閑静な高級住宅街で、大物弁護士・西垣文雄が
惨殺された。横浜地検の美人検察官・岩崎紀美子は、
捜査を進めるほど、事件の裏に大きな闇を感じる。
日弁連と検察庁、警察庁そして県警の確執…。
現役弁護士作家が法曹界のタブーを鋭くえぐった、
第40回江戸川乱歩賞受賞の傑作リーガル・サスペンス。
内容(「BOOK」データベースより)

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法曹界ってこういうところがあるんだなって
楽しみながらマメ知識を仕込むために読む
そんな本。

検察が提訴した案件は有罪率98%なんだとか。
そんな見るからに不自然なパーセンテージ。
これを維持するために、いくつの真実が
嘘で塗り固められ、組織の威信が優先されるのだろう。
かなりの無理があるにちがいないよ。
そんなシンプルなことも解らない、
この小説にでてくる検察のお偉方のような
コリ固まった「検察至上主義」が
非常にコワイかった。これがホントだったら・・。

・真実よりも有罪率98%維持(≒組織メンツ)を
 至上命題とし、日弁連や裁判所をバカにし続ける
 ゆがんだエリート意識をもつ検察。
・裁判官・検察・弁護士は「司法試験」を
 パスした者だけがなれるが、どの職に就くかは
 合格者の判断による。なかでも検察が一番人気がない。
 理由は常に人手不足で忙しい割りに儲からないから。

作者がやっぱ畑違いの人(作家が本業でない)ので
この女主人公にまるで魅力を感じませんがまあいいです。
二時間ドラマの原作にピッタリ。この女主人公を
女優の誰が演じても別にいいですよ。
(さすがに市原悦子と泉ピン子だけはないだろうが)

さもありなん、と読み進めたけれど
2度読みはないレベル。

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2010年10月18日

「漂白の牙」熊谷達也

以前、職場で「人食熊さんブーム」(←嫌なブーム)
が発生、「シャトゥーン ヒグマの森」や
吉村昭さんの「羆嵐」などがまわし読みされた。
おなじ「熊」つながりではないと思うが
次はコレだよ、そういって上司が貸してくれた本が

「漂白の牙」(集英社文庫) 熊谷達也(著)

あらすぢ
雪深い東北の山奥で、主婦が野犬とおぼしき野獣に
喰い殺されるという凄惨な事件が起きた。現場付近では、
絶滅したはずのオオカミを目撃したという噂が流れる。
果たして「犯人」は生きのびたニホンオオカミなのか?
やがて、次次と血に飢えた謎の獣による犠牲者が…。
愛妻を殺された動物学者・城島の必死の追跡が始まる。
獣と人間の壮絶な闘いを描き、第19回新田次郎
文学賞を受賞した傑作冒険小説。

************************

「人間が獣によって喰われた。
 単に殺されただけでなく、喰われて獣の腹に
 収まってしまったという恐怖〜
 そこには耐え難いおぞましさがあった」

「シャトゥーン ヒグマの森」敵が「熊」だったが
こっちでは「オオカミ」。パワーでは熊さんに
劣るものの、スピード、そしてなにより「組織力」では
オオカミさんの方がダントツ。
いずれにせよ
「生きたまま動物に捕食される」なんて光景は
小説の世界だけに閉じ込めて置いてください。

「シャトゥーン ヒグマの森」を読んだときは
もうひとりの主人公(女主人公の兄・土佐昭)の
あまりにヘタレぶりが嫌だったところだったんで
この本の主人公「城島郁夫」氏のカッコよさと
いったらなかった。

その点、シャトゥーンの主人公が「フィールドワークを
主としながらも基本は大学の先生であり、
結局スーパーマンなぞではなく、単に
「ウンチク垂れのインテリ」に過ぎなかった」
というのは、まあリアルといえば
リアルなのかもしれない。

ちなみにこちらの主人公、城島氏は
孤児院育ちで元環境庁のスーパーレンジャー。
野生動物の追跡術にかけては世界第一級。
現場主義を貫き、退職後もWWFの依頼で
世界中を飛び回る。野性味の中にも優しさを
持ち合わせた男。

小説だからこそ、ツウカイな活躍を期待したいもの。
マスターキートンあたりが居てくれたらなあ(苦笑)

この小説で学んだこと。
犬系の動物に襲われることがあったら
オノレの喉元を防御せよ!です。

マスターキートン(正確にはキートンの親父さん)でも
本気になった犬に人間はかなわないけど
もしどうしても犬と戦わなければならなくなった時の
戦い方が描かれていた。
併せて参考にされたい。

「誰かが言った。「奥さんにとってせめてもの救いは
 苦痛を感じるまもなく亡くなられたことです−」
 しかしそれがまったくデタラメであることを彼は知っていた。
 〜捕食者としての動物に捕らえられ、殺される時に
 即死ということはありえない」



やっぱ一番可哀想だったのは主人公の奥さんです。
いろんな意味で。

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2010年10月15日

「クーデター」楡 周平


クーデター (宝島社文庫) 楡 周平(著)

「間違いや不正をうやむやなうちに
 終わらせてしまう社会ほど恐ろしいものは無い。
(中略)人々は無意識のうちに劇的な方法で
 歪みを正せる人間の出現を望むようになる・・
 ヒトラー、毛沢東・・独裁者とはまるで
 救世主が現れたかのように、はじめは熱狂的に
 迎えられるモンなんだ」

まあ、内容はこのセリフに集約されます。
シェーンコップ中将もさんざんヤン提督に
討論を持ちかけていましたしね。

この人の本は、
「フェイク」と「無限連鎖」を読んだ。
とても読みやすく、内容もPON好みであるので安心。
(「フェイク」はいまいちだったけども)

(コピー)「この国は一度潰すしかない・・・!!」
(俺)余計なお世話だっつーの。

あらすぢ
内容(「BOOK」データベースより)
謎の重武装軍団が日本海沿岸の原発を狙う。
機動隊は殱滅され、住民は一斉に避難。
折しも日本海では米原潜の頭上でロシア船が
爆発炎上。航行不能となった
原潜を挾み「北」と米日韓はまさに一触即発。
その時東京で、米国大使館と警視庁に同時爆破
テロ。さらに衆参両院に仕掛けられる青酸爆弾…。
誰が、一体何のために!?
安逸を貪る「虚飾の花・日本」を襲う未曾有
の危機。
各メディア騒然の問題作。

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〜危機に際しての独特な嗅覚

「日本に戻るたびに感じる違和感。死は一瞬のうちに訪れ
 ちょっとした運命の気まぐれが死と生を分ける。一見
 日本と変わらない生活をしているように見える国の
 人々でさえ、危険の兆候に敏感で、対処法を心得ている」

いきなりネタバレしてしますとですね。

オウム真理教よりも行動力と計画性のある
宗教団体、龍陽教(若干センベイ団体も入っているかな)
教祖が、物欲半分、ホンキの世直し半分で
腐った日本をクーデターで維新しようとする話。
そんな時、偶然日本海で北朝鮮VS米軍の
一触即発状態が起きてしまったんで
こりゃ幸い。神は我らを味方していると
北朝鮮にすべてを押し付けるように
ノリノリで計画を実行する。

日本の危機管理はいつものごとく。
政治家は身の保身に走り、なにも決定的な行動は
起こせず、現場だけが酷い目にあう。

名ばかりのスローガンで遅々として進まない改革
自分以外の連中はおいしい思いをしているように見え
なんて息の詰まる世の中・・そう思ってしまうとき、
いつの時代も人々が求めるのはドラスティックな改革を
鮮やかに実行できる英雄。

〜国家のリスクマネージメント

人、あるいは国家の運命というものは、周到に計算された
ものではなく、単なる偶然が左右する。火種はいかに小さくとも
条件が整えばいつでも大爆発の引き金になるものなのだ。

「危機が想定されていない?
「そう、すべての軍事的危機は事前に回避されるものであり
 そういう事態に陥らないようにすることが前提の国だからだ。
 リーダーがいないのだよ。あの国にはな・・。(中略)
 政治の世界には絶望的なほど、すべてに責任を持って
 事の解決にあたる信念を持つ人間がいないのだよ」

〜今回も第14普通科連隊の皆さんが活躍

本作の1997年作 クーデター(楡 周平)でも  
1998年作 宣戦布告(麻生幾)でも
日本海側の原発で警察力を上回るテロが発生するので
必然、金沢に駐屯する彼らが出撃する。

能登半島に最も近い自衛隊を出撃させようとしたら
待たせる実弾が無かった・・・
「自衛隊は原則として弾丸の備蓄を持たないのです。
 盗まれて極左過激組織にでも使われたら取り返しが
 つかないことを恐れてです」
「ただの一発もか?」
「はい。旧ソ連の侵攻を想定した北海道以外は」
「それでは演習はどうするのだ?」
「工場は演習スケジュールに合わせて製造し、
 その日のうちにすべて撃ちつくすのです・・」
 誰がこんな馬鹿げたシステムを作り上げたかって?
 それはお前ら政治家だ!
 幕僚は喉まででかかった言葉を飲み込んだ。

〜テロ最初の犠牲者、高木巡査に敬礼

運転席で黒く炭化していゆく警察官の姿が見えた。
(中略)自分達が行ったのは間違いなく殺人行為で
すべては新世のためだ・・この狂った世を正すには
多少の犠牲はやむをえない・・

〜こんな名前のレストランが!

ザ・クーデター(京都のレストラン)
(THE QUDETA京都)
どうも京都は「クーデター」(≒維新)と
縁が深いから・・ということらしい。



説明的なセリフがちっと多かったかな。
たとえば同一組織内で上官と部下の会話。
「我々がおかれている状況」なんてことを
上司が部下に懇切丁寧に説明してたりするけど・・

読者が知らないのはいたしかないが
そんな情報も知らないで
その組織に所属しているのだとしたら
これは問題がありすぎ。

あ、日本の組織が腐っていてもはや行動不能に
陥っていることを、小説で再現したかったのかもしれない。
まあ読みごたえに繋がるからヨシとしよ。

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2010年10月14日

「感染」仙川 環


「感染」 (小学館文庫) 仙川 環 (著)

あらすぢ
内容(「BOOK」データベースより)
ウィルス研究医・仲沢葉月は、ある晩、未来を
嘱望されている外科医の夫・啓介と前妻との間の子が
誘拐されたという連絡を受ける。幼子は焼死体で
発見されるという最悪の事件となったにもかかわらず、
啓介は女からの呼び出しに出かけていったきり
音信不通。痛み戸惑う気持ちで夫の行方を捜すうち、
彼女は続発する幼児誘拐殺人事件の意外な共通点と、
医学界を揺るがす危険な策謀に辿り着く―。
医学ジャーナリストが描く、迫真の医療サスペンス!
第一回小学館文庫小説賞受賞作。

************************

うーーん。
一度読めばもういいかな。
医学ジャーナリストが小説に初チャレンジした作品。
なんつーか二時間ドラマみたいな感が。
登場人物が薄いし、女主人公にもまるっきり
思い入れがもてないし・・なにより
この主人公の旦那がもう、どうにもいただけない。
行動も、残した結果も。

しかもとってつけたような犯人。
(消去法で確実に見つけ出せる)
結局ナニがやりたかったのか
さっぱりわからない、海外帰りの女性研究員とか。

臓器移植とは、
「誰かが何とかしてくれているんだろーな」って
認識で終わらせがちだが、移植待ち患者に
ピッタリの臓器提供がそうそう発生するはずもなく。
そこには家族愛のためならばエゴといわれようと
かなりの犠牲を払ってでも!と思う身内も多いだろうし
であれば、そこにつけ込み、
オゾマシイことをたくらむ輩がいても
おかしくないやね。

異種間臓器移植
貧富の差による「臓器売買」
禁断の領域に手を出さなければ遭遇することも無かった「ウィルス」
そしてエゴイズムの原点である「親の子供への愛」

この小説はその辺の所を解りやすく書いたものです。
登場人物はオマケです。はい。



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ラベル:感染 仙川 環
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2010年10月13日

「震源」真保裕一

「震源」真保裕一

「震源」(講談社文庫) 真保裕一(著)

真保裕一氏は元アニメーター。
貧乏生活を語らせたら止まらないらしい。
代表作は青島刑事が雪山で大変な目にあった
「ホワイトアウト」。
あれで人気作家の仲間入りをしたようで・・
もう貧乏は脱出したのかな。

あらすぢ
地震計に浮かびあがった謀略の波形とは!
津波発生、データ消失と同僚の失踪の陰で密かに
進行するのは何か。気象庁地震火山研究官・江坂が
巻き込まれる国家的陰謀!

最初は九州各地を襲った不意打ちの津波だった。
福岡管区気象台地震津波火山監視センターでは、
人為的ミスによる失態で、津波予報が間に合わない
という不祥事が発生した。その渦中にいた江坂は、
やがて気象研究所へ異動となり、観測調査のため
再び九州の地を訪れる。そこで彼を待ち受けて
いたものは……。突然の観測延期、同僚の失踪。
そして地震データの消失……。水面下で密かに
蠢く国家的陰謀。震源を巡る驚愕の真相とは?

************************

巷では「小役人シリーズ」とか言うらしい。
真保裕一氏は、地味な「役人」を主人公にして
彼らを活躍させるのがシュミ?の様子。

今回の小役人は(←日々、地震予知に精励されている
気象庁地震火山研究官の方には失礼な響きですが・・)
福岡管区気象台地震津波火山監視センターの
地震火山研究官。

彼に良かれ悪しかれ影響を残した先輩が失踪。
それを追っかけるうちに、国家的陰謀が
浮かび上がってくる・・とあらすぢにも書いてありますが
いまいち、主人公が先輩を追っかける動機が弱い。

いくら自分の心に影響を残した、印象的な辞め方を
した先輩だからといえ、公的な出張の合い間に
そこまで追跡調査しないでしょうよ。ふつーは。

そこら辺は、作者もさすがに考えたらしく
話も佳境に入り、個人的な捜査能力では
物理的に限界になってきますと、主人公に
手を貸す存在として、雑誌の編集者たちが合流しますけれど。

主人公とは対照的に、国家中枢にて
いろいろ策をめぐらすエリート役人が出てくるんですけど
PONの中ではずっと「嶋田久作」さんでした。

最初から中盤にかけては、やや展開が
モタついているように感じましたが
結局、最後の最後までググっと
読者の関心ワシづかみの手腕はさすがだと思います。

主人公側がモタつく反面、
もう一人の主人公といってもいいと思う
「嶋田久作」氏側の行動描写が
スピーディーすぎで、人物も盛り込みすぎてしまい
若干消化不足かと。
読むならイッキに読んだほうがよいかと。
えーっとどこまで読んだんだっけ?的スタイルだと
結局「嶋田久作」が何をやりたかったのか
わからなくなるキケンが・・。
ジブンのことですけど。



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2010年04月04日

「翳りゆく夏」赤井三尋

「翳りゆく夏」 赤井三尋

翳りゆく夏 赤井三尋 講談社文庫

うん、面白かったですよ。
これからミステリー小説を読みたいんだけど
と言う人におすすめできると思う。
強烈な「アタリ」はないけれど
文章も読みやすく、安心して先に進められる。

あらすぢ
20年前の誘拐事件に
“封印されていた真実”
過去と現在、親と子、罪と罰……。
さまざまな要素が複雑に絡み合う、
社会派ミステリーの傑作。

「誘拐犯の娘が新聞社の記者に内定」。
週刊誌のスクープ記事をきっかけに、
大手新聞社が、20年前の新生児誘拐事件の
再調査を開始する。社命を受けた窓際社員
の梶は、犯人の周辺、被害者、当時の
担当刑事や病院関係者への取材を重ね、
ついに“封印されていた真実”をつきとめる。

第49回江戸川乱歩賞受賞作

************************

「かくしゃく」って漢字で書けるか?

主人公「梶」はある事件がもとで
編集資料室にとばされた窓際社員。
しばらく遠ざかっていた現場に
当人も思いもやらぬ事情から復帰することになる。
窓際と言われても元は辣腕記者なんで
さくさくと、あの手この手で真相究明に
駆けずり回る。主人公として最適。
元辣腕記者でよかった。
これが無能なために飛ばされて来てたなら
結局よく解りませんでした・・で終了だもの。

ちょっと残念なのは、この「梶」ってキャラが
あんまり感情移入できなかったところ。

作者は囲碁が好きらしく、キャラが囲碁を通して
やり取りする場面が出てくるが、囲碁をまったく
知らない自分には、まったく理解できませんで。
残念。

自分は中小企業勤めの経験しかないモンで
恥ずかしいのだが、大企業の幹部達って
あそこまで偉そうなものなのか?



直感像気質

「刑事にとって冤罪事件にかかわるほど
 つらいことはない」

「でも、それは仕方がない。どんな場合だって
 真実が優先
される・・」

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2010年03月21日

「K・Nの悲劇」高野和明

「K・Nの悲劇」高野和明

高野和明 講談社文庫

上司からもらった一冊。
高野和明氏の作品といえば
グレイヴディッガー」と
「幽霊人命救助隊」が既読です。

「幽霊〜」は面白かったので
続けて読んでみました

・・

あらすぢ
内容(「BOOK」データベースより)
若くして成功した夫との新しい生活。だが予期せぬ
妊娠に中絶という答を出した時から、夏樹果波の心に
異変が起こり始める。自分の中に棲みついた別の女
―精神の病か、それとも死霊の憑依なのか。
治療を開始した夫と精神科医の前には想像を絶する
事態が待ち受けていた。乱歩賞作家が描く、
愛と戦慄の物語。

************************

うーーん。面白かったし
読後感もなかなかなのだが・・

たとえを選ばず書きますけど、
われわれが普段は意識的に目を逸らしている
「タンつぼ」(肥溜めでも可)を
ずーーと見せつけて、自分達の生きている
この社会の薄汚れに気がつきなさい、
もっと問題意識を持ちなさいと
揺さぶりをかけられたような、そんな小説。

日頃は日本人が目を背けている部分
見ないことにして忘れたフリをしている部分
そこに敢えて焦点を絞った話。
それだけじゃ誰も読んでくれそうにないから
エンターテイメント風味で味付けしてみた。
「幽霊人命救助隊」と同じ。
根底に流れるテーマは非常に重いのだが
それをエンターテイメント小説として昇華してしまう。
その手腕はさすが。

************************

「医学はまだ、女性の体に生命が宿るという
 現象を解明しきれていない。
 母体の中で発生した胎児という異物に対し
 どうして免疫システムが寛容に振舞うのかさえ
 分かっていない
のだ」

「薬によって抑制できてしまう人の心―
 神経細胞というたんぱく質とその間に流れる
 電気信号に過ぎない。精神活動とはすべて、
 物質の相互作用に他ならないのだ・・」

KN.jpg

「修平は、女という性に震撼した。
 男の内面をいともたやすく見抜き
 弱みを知りつくし
 被害者であり続けることで加害者へと
 変貌してゆく女という存在・・」

「男女が出会い、小さな細胞が結びつき
 新たな生命が生まれる。それは心霊現象と
 同じくらい神秘的なことだった・・。」

・・うーーん。平和に暮らしていたい人(特に成人男性)
  にはお奨めはしません。
  ティーンエイジ〜20代前半で都会の夜の生活を
  限りなく謳歌している人たちにはいいかもしれない。
  あの人たちが小説を読むかどうかは疑問だけど。



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2010年02月16日

「魔術はささやく」宮部みゆき

魔術はささやく (新潮文庫) 宮部みゆき

宮部作品はしばらく遠ざかっていたんですが
上司よりいただきました「誰か ----Somebody」を
一気に読破してしまったので返す刀で
魔術はささやく」です。
毎度ながら読みやすい文体で、しかも最後には
丁寧に謎が解明されるんで安心して読んでいられます。

あらすぢ
(「BOOK」データベースより)
それぞれは社会面のありふれた記事だった。
一人めはマンションの屋上から飛び降りた。
二人めは地下鉄に飛び込んだ。
そして三人めはタクシーの前に。
何人たりとも相互の関連など
想像し得べくもなく仕組まれた三つの死。
さらに魔の手は四人めに伸びていた…。
だが、逮捕されたタクシー運転手の甥、守は
知らず知らず事件の真相に迫っていたのだった。
日本推理サスペンス大賞受賞作。

************************

主人公は罪人の親を持つという設定。
センセーショナルな生い立ちは田舎町では
特に致命的。そんな田舎の空気は少年を
虚無的な青年にさせた。

故郷の町だけでなく、転校先であっても。
どこにでも情けない心根の人間はいるもので・・

ここもそうか。守は思った。
「人間は、せんじつめれば七種類しかいないという
 話を聞いたことがある」

「自分も十持っていて、隣の人間も十持っている
 状態で、その隣にいる人間に対して優越感を
 感じたいと思ったら 相手から何かを取り上げて
 しまうしか方法がない
 ―彼のような人間が満足感と幸福感を
 得ようと思ったら、もう足し算では駄目なのだ。

 引き算しながら生きてゆくしかない」

バカによるイジメならば自分だけが耐えればいい。
守はそれを跳ね返すだけのポテンシャルを持つが
そんな矢先、世話になっている伯父夫婦の身に
災難が降りかかってくる。

ま、ネタを知らされれば、ホントそんなことできるの?
と思わなくも無いんだけれど。

「ピッキング能力」「魔術」「詐欺商法」

世の中には、それだけの能力を持っているのに
自律により悪いことには使わない人と
目的のためなら何でもやる人が存在する。
(場合によれば、能力を持っていなくても
 無理やりなんとかしてしまう)

人は性善でも性悪なくニュートラル。
天使にもなれれば悪魔になってなれる。

SWでいう、ジェダイの教えと同様。
ダークサイドに堕ちて即効実益を得る方が簡単なのだ。

けれども人は基本的にどうしようもなく
弱い存在なので、誰でも暗黒面に堕ちる可能性を持つ。
天使と悪魔の差異とは実は小さなものでしかないのだ。

故郷で孤独だった守を唯一フォローしてくれた
鍵師のじいちゃんがいう―

「おまえの親父さんは悪い人ではなかった。
 ただどうしようもなく弱かったんだ―
 弱さは誰もが持つ。お前にも。世間の連中が
 無責任に「血は争えない」なんていう。
 じいちゃんが怖いのはそれだ」

物語の流れがいきなり「緩む」ところがある。
主人公は、タクシー運転手である伯父の疑いが
晴れた時点で、いまいちすっきりしないけれど
それ以上、真相を追う必要がなくなるのだ。

結局は、犯人の方が主人公のことを何故か気に入り
正体および真相の暴露をしてくれんだが。

高校生にしてピッキングの名手ってのもなんか
キャラ設定としてはかなり特殊。
主人公のバイト先での「広告」に関するくだりも
これまた余計といえば余計。最後の最後で
繋がるのかと思いきや、行き止まりのまま
話が終わってしまったり。



宮部みゆき作品にしては結構初期のころのようで
構成や文脈が若干読みにくい部分もあったけれども
それでもやはりグイグイ引きこまれる、良質の
ミステリーでありました。

「悪いのは自分の意思でやったりやらなかったり、
 したことに言い訳を見つけることだ。
 守、親父さんをお前の言い訳にしちゃいけない
(意訳)」

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魔術師いわく・・
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2010年02月10日

「誰か Somebody」宮部みゆき

「誰か Somebody」(新潮文庫)

「子供はすべての暗闇にお化けの形を見出す―」

いつもの事だけど、プロの作家に大変失礼な
言い方だが、本当に宮部さんは読み易い文章を書く。
つくづく感心する。

彼女の一文を、このブログのために(勝手に)
書き写しているだけでも、なるほど、そういう
表現の仕方があるのか!と勉強になることが多い。

パソコンが主流になり、自分が覚えていない
漢字でもすら、なんでも漢字に変換しがちだけど
あえて「ひらがな」のままにしておくだけでも
読み手の印象はずいぶん変わる。

突き詰めて言えば、俳句なんかのように
説明文にならないよう単語を吟味。同じ事を
指している単語でも、より多義的な単語を
選択することで、読み手の想像力の幅をひろげ
少ない言葉で多くの世界を表現できる。

プロの小説家はそれを当たり前のように
行っているのだ。文章くらい誰でも書けるなんて
思いがちだけど、どの世界にもプロは存在するし
やっぱプロって凄い。

あらすぢ
内容(「BOOK」データベースより)
財閥会長の運転手・梶田が自転車に轢き逃げされて
命を落とした。広報室で働く編集者・杉村三郎は、
義父である会長から遺された娘二人の相談相手に
指名される。妹の梨子が父親の思い出を本にして、
犯人を見つけるきっかけにしたいというのだ。
しかし姉の聡美は出版に反対している。聡美は三郎に、
幼い頃の“誘拐”事件と、父の死に対する疑念を
打ち明けるが、妹には内緒にしてほしいと訴えた。
姉妹の相反する思いに突き動かされるように、
梶田の人生をたどり直す三郎だったが…。

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「―真実にも寿命があるのだと。」

面白かった。淡々としていて
ドラマチックな設定や、仕掛けがあるわけでもない。

「黙ってりゃわかんないわよ―」
会社生活を、いや人生を明るく乗り切るための
金言である(主人公の会社上司のセリフ)

そう、すべては「黙っていればわかんない」のである。
表面上はうまくいっていたことをほじくり
繰り返すことが、真相を究明することが
本当に幸せに繋がるのだろうか?

黙ったまま時が過ぎるのを待っている
そんな謎があるとすれば、それは、隠したほうが
誰かが皆の幸せになるから・・そう判断した
結果だからではないのか?

両親にとって「戦友」と「一番星」
姉と妹の、育った時代の差からくる気質の差が面白い。

主人公は素人探偵ながら、真相について
おぼろげながら理解できるところまで到達するが
結局根本的な解決はなされぬまま終わる。



誰が悪いわけでもない、誰か・・

それと巻末の解説を書いている「杉江松恋」氏
この人も作家であり文芸評論家だというが
解説文もやはりプロだった。

松江氏自身がどこぞの職人さんの引用した言葉
「下手の長糸・上手の小糸」

・・もとは裁縫の教えで、糸通しの回数を減らしたい
ために長い糸を通しがちであるが、実は上手な人ほど
手間を惜しまず適当な長さの糸で縫っていく。
地味な作業の繰り返しこそが「上手」なのだそう。
「上手の小糸」こそが宮部作品をよく表現している。

こんな私でも、いい加減自分の書く文章の長さ
回りくどさにただ呆れることがある。
書くだけ書いておきながら、言いたいことの
半分も伝わらなかったりする。
「上手の小糸」とは頭のよさだな。

最後に、ネタばれと言うほどではありませんが
折に出てくる「携帯電話」がポイント。
気をつけて読んでみてください。

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2010年02月05日

「支店長の遺書 憤死」清水一行

「支店長の遺書 憤死」清水一行

電車の中で拾ったんで読んでみた。
それにしてもだいぶキアイの入った文庫。
黄色ががって、重版してたけど昭和50年代だし。

あらすぢ
東京新宿で、中野区の区会議員の変死体が発見
された。捜査の結果、この事件の二カ月前に
焼身自殺した筑波銀行新宿支店長との関連が
浮かんだ。議員らにだまされ、二億円もの不正融資
をさせられたとの抗議の遺書。しかし銀行は、
スキャンダルを恐れ、事件をうやむやに処理
していた。現代の聖域、銀行の知られざる内幕に、
鋭いメスを入れた企業推理小説の傑作。

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昭和53年くらいの話なんで、
主人公は小説内で29歳だが、
今生きていれば60歳内外!もう定年である。

ネタバレになるけど、この頃の彼らの両親、
上司、上層部、社会を動かしていた面々ってのは、
大陸(オーストラリアでもアメリカでもなく
満州です)で、今では絶対体験出来ないような、
それはもう「様々」な経験を重ねてきた
人達なわけですよ。
判りますかね?この場合の「様々」って。
海千山千、多少の事じゃ動じないよなあ。

そんな連中が上の世代にいるんだもの・・
いわゆる団塊の世代って方々は、
(時にはイヤな思いをしながらも)彼らに
鍛えられ、日本を支えることができたわけだな。

昭和20年、終戦。軍部と政治家のお偉い方は
好き勝手やった末にあらかた死亡、
30〜40代の働き盛りも真っ先に戦死。
とにかくやらなきゃいけない事はたくさんあるのに
マンパワーが圧倒的に不足していて
ポストはあるけど成り手がいない・・
たしかにそんな時代が存在したんだと思う。

法律も社会的コモンセンスもゆるーい時代でしょ?
「昔、大陸でなんかやっていたらしい。
 フシギに金持っている。戦後のドサクサで
 業界に紛れ込んだ、ガラじゃないのに
 何故か結構、美味しい地位にいるジイさん」
1980年代初頭は、それこそいろんな社会の
トップにいたんだろう。

戦争で清濁経験した人々が表社会、裏社会で
それぞれ偉い地位についていた時代が確かにあって
そんな時代は、いくら暴力団追放を叫んでも
意味がなかったと思う。
表のトップも、裏のトップも、たいして変わらない。
時と巡り合わせが違っていれば、どっちに
ころんでも、おかしくない人達ばっかりだったから。
表社会の人間は、生まれた時から「表」の人間と
いった棲み分けが、現代ではかなり明確だ。

表社会は、何十年もかけて裏社会との繋がりを
断ち切る(少なくとも見えなくする)努力を
してきたんだろう。これからも完全には
なくならないだろうけど。

・・てなわけで、何を言いたいのかというと
小説の、昭和53年に29歳だった主人公
彼より上の世代(部長とか社長級)は、
混乱の時代に鍛えられた一筋縄ではいかない
連中ばかりで、叩けばホコリだらけのひとも
多かったものと思われ。
そんな時代背景の「企業推理小説」ですから、
主人公が立ち向かう謎解きも大変です。
お疲れ様でした。

>現代の聖域、銀行の知られざる内幕
そんなに、当時(昭和50年代)の小説で
企業の内幕を描くモノって少なかったのだろうか。
オチを知ってもそれほどショッキングには
感じなかったけれど。

小説内では「携帯電話」も「インターネット」もなく
情報収集するなら新宿のスナックやらバー。
そんな時代を今では新鮮に感じます。



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